去る5月21~22日の2日間、一般社団法人ITヘルスケア学会による『ITヘルスケア学会 第10回記念学術大会』が催されました。1日目は「医療ビッグデータから見えてくるもの」、「これからの認知症ケアとデータ活用」、「医療・介護を支える最新のロボット技術」という3つのシンポジウムを主軸に、各界の有識者諸氏が登壇されました。本記事では、その1日目の模様をレポートいたします。(取材・文:小松智幸)
■シンポジウム1「医療ビッグデータから見えてくるもの」
座長:磯部 陽氏(国立病院機構 東京医療センター)
最初のシンポジウムは、医療現場で用いられるデータ活用について。国立がん研究センターの石川ベンジャミン光一氏が登壇し、「DPCデータがもたらす医療へのまなざし」についてスピーチ。包括医療費支払い制度方式(DPC)で扱うデータを活用することで、全国の病院の症例や傾向を統計で見られる点や、データベースを基に次期医療計画の適正化を図れる点などのメリットを紹介。医療データの「エコシステム構築の必要性」を説いた。
続いて登壇した慶應義塾大学医学部教授、宮田裕章氏は、「医療における質の向上と持続可能性の両立」として、人口減少社会が直面している医療政策の課題を挙げ、生産性を改革して人口減少に挑む展望を紹介した。
大坂府立成人病センターの宮代 勲氏は、「がん登録推進法施行後のがん登録」として、今年から施行されたがん登録推進法の成立経緯と種別、施行後の状況を説明。今後の活用方法やその重要性を強調した。
■シンポジウム2「これからの認知症ケアとデータ活用」
座長:高瀬義昌氏(医療法人至高会理事長・たかせクリニック)
山下和彦氏(東京医療保険大学)
認知症ケアをテーマにしたシンポジウムでは、国立病院機構東京医療センターの本田美和子氏が登壇し、「知覚・感情・言語による包括的ケア技術:ユマニチュードの実践と分析」を講演。フランスの認知症ケア手法「ユマニチュード」の実践と従来ケアとの比較から、患者の改善傾向だけでなく、投薬量や諸費用の低減、職員の意識にも良好な影響を与えた、という成果を紹介した。
本田氏とともに、本取り組みに参加した静岡大学大学院の石川翔吾氏は、「認知症情報学に基づくマルチモーダル認知症ケアスキルの分析」として、コミュニケーション分析手法を紹介。情報学観点のコミュニケーション表現により、専門家による実践知のモデル化を通して分析から数値化、有効性を示した。
映像分析で参加した京都大学大学院の中澤篤史氏は、「機械学習による一人称視点映像分析による介護スキル評価」として、頭部装着カメラと姿勢計測ヘッドセットを使ったアイコンタクト検出アルゴリズムを紹介。介護スキルの定量化手法を策定した。
医療法人至高会理事長・たかせクリニックの高瀬義昌氏は、「認知症における薬とケアの最適化」として、一般に誤解されがちな認知症の症状や在宅医療の課題などを紹介。スギ薬局の榊原幹夫氏は、「地域包括ケアシステムにおける認知症患者における医薬品適正使用について」として、地域薬局での処方の実態や慎重薬(高齢者に慎重な投与を要する薬物)投与状況を報告した。
■シンポジウム3「介護・医療を支える最新のロボット技術」
座長:木暮祐一氏(青森公立大学大学院)
阿久津靖子氏(株式会社MTヘルスケアデザイン研究所)
ロボット技術や機械学習をテーマに、各界の識者が登壇。リバーフィールド株式会社の原口大輔氏は、「空気圧サーボ駆動を用いた力覚を有する手術支援ロボット」として、既存の手術支援ロボットの課題である「力の感覚」を備えた空気圧制御ロボットを紹介した。
ダイワハウス工業株式会社の田中一正氏は、高齢化社会への取り組みとして展開する、シルバーエイジ研究所とロボット事業を挙げ、福祉用ロボットスーツやメンタルコミットロボット、尿吸引ロボットなどを紹介した。
獨協医科大学情報基盤センターの坂田信裕氏は、Pepperやシャープのロボホンなど、ロボットとのコミュニケーションで介護現場や家庭に役立てる取り組みを紹介。
フューブライト・コミュニケーションズ株式会社の吉村英樹氏は、仙台放送と協同で取り組んだ脳トレ体操アプリや、Pepperを導入した介護現場でのモニター調査結果などを報告した。
日本IBMの西野 均氏は、「IBMワトソン・ヘルスの技術とソリューション」として、Watsonの機械学習を活用
した、皮膚がんの早期発見技術や治療方針の提案事例などを紹介。現場での活用状況と今後の可能性を示した。
以上、駆け足ながらも1日目の模様を紹介致しました。当日はシンポジウムのほかにもランチセッションや、一般演題としてポスターセッションが催され、来場者同士の活発な交流が生まれていました。
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