『mHealth Watch』では、ここ最近で公開されたニュースから「注目ニュース」をピックアップし、独自の視点で解説していきます。
今回注目したニュースはこちら!
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“Kaiser Permanente、医療従事者からアプリ提供できるエコシステム『Project Chamai』”
毎年、驚くほど多くのストレス、不安、または鬱病に関連する健康アプリがリリースされているが、デジタルツールやサービスを患者に推奨することに興味を持っている多くのセラピストや臨床医が、完璧なツールを探すためにApp Storeを利用する時間がないため、膨大なオプション(選択肢)が犠牲になっている。
Kaiser Permanenteはこういった医療問題に取り組むため、準臨床的行動疾患の患者の内の25%に目を向けるべく2016年に『Project Chamai』が開始された。『Project Chamai』のチームは、チーム内のメンバー38人、その他数十人の臨床医およびステークホルダーへの取材を通じて、通常の治療を補うものとして臨床医からも患者にお勧めできるような、便利なモバイルアプリ群によるエコシステムの開発に、過去2~3年を費やしてきた。
Kaiser Permanenteで予防、健康、デジタルヘルス担当のシニアプリンシパルコンサルタントを務めるTrina Histon氏がボストンで開催された「HXD 2019」でのセッションで語っている。「弊社のチームのメンバーは、この取り組みをとても真剣に受け止めています。療法士から『当アプリを使用するように』と指示されたメンバーもいるくらいです。App Storeにある無料アプリや99セントで買えるアプリとはレベルが違います。弊社のチームのメンバーは、当アプリ群が非常に複雑であることを知っています。当アプリ群がどれだけ見事な医療問題の解決策であろうとも、ワークフローに組み込む方法を考え出さなければなりません。さもなくば、決して患者に紹介されることはないでしょう。そういった理由で弊社は近頃、弊社の電子健康記録(EHR)やデジタル処方プラットフォームを、非常に深くまで探っています。その目的は当アプリ群を、療法士にとって、患者との会話からどのツールが最適であると判断した場合であっても、非常に患者に紹介しやすいものにすることです」。
これまでのところ、『Project Chamai』のチームが手がけるアプリによる処方エコシステムは、たった6つのメンタルヘルスアプリだけで構成されている。その内の3つはマインドフルネス瞑想に焦点を合わせたもので、残りの3つは認知行動療法に基づいたものだ。注目すべきは、Histon氏も強調していた各アプリ間の多様性だ。例えば、一部のアプリは動画をベースとしており、1つはコーチ付きで、さらに別の1つはナビゲーター付きだ。同チームは、英語を使えないユーザー向けにもアプリを開発して、アプリの品揃えを強化することにも検討している。しかしその一方でHiston氏は、そういったアプリを開発する選択が取られる可能性はまだごく少ないとも述べている。
Kaiser Permanente社内のチームであるデザインコンサルタンシーでサービスデザイナーを務めるAubrey Kraft氏は、確実にそれぞれの患者に最適なツールを提供するためには、こういった多様なアプリを手元に抱えておくことが重要であると語っている。あいにく、デジタル製品の供給過剰や各個人のニーズの問題により、当アプリ群の品揃えの強化は、まだまだ先のプロジェクトとなっている。
Kraft氏は、「あるタイプの人がある発作を起こしてやって来て、ある症状を経験しているなら、最適な選択肢として何を提案するべきなのか? もしくは、もっとはっきり言うと、そういった時に患者はアプリ内のどのようなコンテンツを試すべきで、どのような記事を読むべきなのか? それこそが、弊社が今もなお見極めようとしていることです。また弊社は、臨床医のためにアプリをできるだけ簡単にしようともしています。臨床医にこちらに来てもらい、アプリの開発に協力してもらえればそれが最善の方法なのですが、そうすることができるような時間が彼らには全くないことはわかっています」と述べている。
Kraft氏とHiston氏が語ったところによると、こういった課題にも関わらず、開業臨床医や患者からのフィードバックは、アプリが患者への紹介に適しているかどうかを判断する上で最優先されるのだという。そのため『Project Chamai』のチームは、少数の人員をメンバーに加えると共に「優秀な臨床医」を募って、検討中の一部のアプリのテストや評価に協力してもらった。
記事原文はこちら(『mobihealthnews』2019年4月3日掲載)
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『mHealth Watch』の視点!
モバイルアプリは登場した当初から着実に医療の現場に進出してきました。しかし、製薬や医療用機器がMRなどの専門的知識を有するスタッフから紹介されるのに対し、アプリはApp Storeから提供されるため、(ジャンル分けされているとはいえ)エンタメも医療用も一緒くたに存在する場所では、医療レベルで使ってよいものか判断しにくいのも事実です。
そんな状況に対し、医療に限定したアプリを紹介するサービスも多く立ち上がってきました。例えば英国NHSが提供した健康アプリライブラリー「NHS choices」では専門医が確認し、NHSとして効果を認めたアプリだけが紹介されていました。
患者が自由意志で選択するには「NHS choices」などはよい紹介の仕方ですが、医療従事者が患者と情報共有したいとなると状況が変わってきます。同じような症状でも患者がそれぞれ違うアプリを使ってしまうと、データ共有が一括でできない、使い方がそれぞれ違う、など多くの課題があります。
特にEHRとデータ連携したいとなるとさらに複雑です。医師が患者に勧めたいアプリがあったとしても院内で使っているEHRと連携できるとは限りません。導入したいアプリを1つ1つ使えるような環境を整備していかなければなりません。
今回紹介するKaiser Permanenteの取り組み『Project Chamai』は、Kaiser Permanenteがアプリの開発からデータ管理共有、提供方法まで含めたトータルプロデュースされています。医療従事者からすると理想の状態になっているのではないでしょうか。
しかし、通常の病院単体では簡単にできることではないでしょう。特にKaiser Permanenteの場合は(もちろん規模が大きいこともありますが)、HMO(Health Maintenance Organization)であるため、保険から医療サービスが一体となったサービス提供をすることからも、自社独自の取り組みでないと成立しにくいといった点も挙げられます。
情報薬としてモバイルアプリに求められる機能は、患者の治療支援だけに留まらなくなっています。果たしてアプリ提供者にすべてを要求すべきなのでしょうか?アプリ提供者が自分たちの強みに専念することも技術発展には重要と思われます。提供する仕組みや法整備も含めて見直す段階に来ているように思われます。
『mHeath Watch』編集 渡辺 武友
株式会社スポルツのクリエイティブディレクターとして、健康系プロダクト、アプリ、映像などの企画・制作ディレクションを手掛ける。「Health App Lab(ヘルスアプリ研究所)」所長として健康・医療アプリの研究発表を行う。またウェアラブル機器、ビジネスモデルの研究を行ない、健康メディアでの発表や、ヘルスケアITなどで講演を行う。
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