『mHealth Watch』では、ここ最近で公開されたニュースから「注目ニュース」をピックアップし、独自の視点で解説していきます。
今回注目したニュースはこちら!
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“糖尿病患者に提供した支援アプリを積極的に使用したのは10%だった”
糖尿病患者に関する8週間にわたる研究が最近、医学雑誌『The Journal of Medical Internet Research』に発表された。これによると、全体の約20%の患者しか臨床医が一定期間提供するアプリを使用しなかった。しかも積極的に使用したのは、そのうちの半数にすぎなかった。
この小規模な研究は、シンガポール人の研究者グループが2型糖尿病患者84名に対して実施。その多くは最近、糖尿病と診断された者だった。研究ではアプリを使用したことがない患者を抽出した。
患者たちは、シンガポール政府が開発した対話型アプリ『Diet and Activity Tracker iDat』の使用方法の指導を受けた。このアプリは血糖値の記録はできないが、ユーザーのカロリー摂取量や、内蔵のGPSステップカウンターで活動を記録できる。また、このアプリにより、ユーザーの目標設定や進捗状況の記録、Facebook上での進捗状況のシェアが容易に可能だ。
8週間後、研究者たちはアプリの使用状況を分析したが、その結果、研究参加者の76.8%が「最小限」の、11.9%が「断続的、尻つぼみ」な、9.5%が「几帳面」なユーザーであることがわかった。
「食事療法や運動指導と合わせて医療関連アプリを勧める医療サービス提供者は、10人のうち2人しかアプリを使用する可能性がなく、几帳面に使用する可能性があるのは10人のうち1人にすぎないことを意識すべきだ」と今回の研究者は記している。「この3グループのユーザーの心理学的構成概念、これがユーザーのアプリに対する態度に影響するのだろうが、それを理解するためには一層の研究が必要である。各アプリの設計や特長、機能性も、ユーザーによるアプリの利用を促進・妨害している要素となっている可能性があるが、この解明には一層の研究が必要である」
アプリ使用の有無を予見できる判断要素がいくつかあった。被験者は男女概ね半数ずつであったが、女性ユーザーの方が几帳面にアプリを使用する可能性がずっと高かった。また、几帳面にアプリを使用するグループは、もとから運動をやる気があるグループと相関性が高かった。すなわち、この研究の参加者のうち既に運動の動機付けがされている人間である。
この研究は小規模かつ短期間のもので、他国でも実施されている。したがって、結果は特に一般化できるものではない。しかし、これはモバイル医療の研究における重要な点を示している。すなわち、患者に対するアプリの提供と患者が実際に使用することの間には大きなギャップが存在しているのだ。特に行動の変化をうながすアプリについては、しばしばなされる批判(モバイル医療アプリを使用する患者は、アプリなしでもすでに動機付けされている可能性がある) に対し、一定の証拠を提供している。
記事原稿はこちら(『mobihalthnews』2月5日掲載)
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『mHealth Watch』の視点
糖尿病患者への支援としてアプリを活用し、その利用状況を分析した記事です。今回は興味深い内容でしたので、全文を翻訳したものを掲載しました。
今回提供されたアプリは、血糖値記録はなく、カロリー摂取量の記録、歩数による活動記録などができる、いわゆる“健康管理アプリ”です。利用率は10%しかなかったそうです。
この記事を読んで私は「やっぱりそうか」と思いました。「なぜそんなに低いの?」と思った方もいるかもしれませんね。糖尿病という慢性疾患に直面しているのだから、率先して取り組むのではないかと。
しかし実態は違うようです。特に今回対象となった2型糖尿病の場合、食べ過ぎや運動不足などの生活習慣が原因の人が多い、と言われています。また糖尿病は症状(痛みなど)が出にくい、とも言われています。生活習慣を変えるのはかなり大変です。まして痛みなどが出にくければ、率先して生活を改善しようとする意識も持ちにくいでしょう。
漠然と健康な人に“健康のために行動しましょう”より、疾患がある人に向けたビジネスの方が成立しやすいのは確かですが、疾患がある人も我々健常者と同じように、率先してやりたいと思うものでない、なかなか動いてはくれません。人の気持ちを動かすためのひと工夫が、ヘルスケアビジネスの重要なポイントになる、と言えるのではないでしょうか。
『mHeath Watch』編集 渡辺 武友
株式会社スポルツのクリエイティブディレクターとして、健康系プロダクト、アプリ、映像などの企画・制作ディレクションを手掛ける。「Health App Lab(ヘルスアプリ研究所)」所長として健康・医療アプリの研究発表を行う。またウェアラブル機器の研究を行ない、健康ビジネスメディア「ヘルスビズウォッチ」を中心に海外のトレンド情報などを発表している。
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