12月6~7日の2日間、東京都内でオフィシャル開催が2度目となる『Health 2.0 Asia – Japan 2016』が開催されました。
2日目は地域包括ケアにスポットを当てた講演を拝聴してきました。午前にはオランダ発のビュートゾルフ社に取り組みについて紹介され、午後は日本でどのように地域包括ケアを育てていくべきなのかについて議論されました。
今回は、オランダで2006年に起業し、これまでの在宅ケアのあり方を一新したビュートゾルフ社が、どのように課題を解決し、1万人超の組織へと発展したのか。Stephan Dyckerhoff氏のスピーチを紹介します。(取材:渡辺武友)
■Case Study ビュートゾルフ(オランダ)
スピーカー:Stephan Dyckerhoff氏(Buutzorg Neighbourhood Care Asia)
オランダの現状として80%が在宅ケアである。では、なぜビュートゾルフが必要になったのか?
10年前は、ケア、予防、医療が細分化されていた。介護の品目ごとに予算が示されていて、それに従ってケアの提供がされる、介護士はそのメニューに従うしかない状況だった。項目以外の要望があっても答えることができない。また専門家が複数に分かれているため、ひとりの患者にたくさんの人が行くことになってしまった。
このようなやり方だと誤ったインセンティブが与えられることになってしまった。提供者側としては、患者にたくさんの項目を売ることが収益増につながるようになった。その結果、ひとりの患者に過剰なケアをすることになり、専門家は不足し、効果も見えにくいものになってしまい、提供者も患者も全員が不満を持つことになった。
そこで看護師でもあった代表のJos Buutzorgは、今までの在宅ケアとまったく違う新たなモデルに向かうことになり、まず要となる5つの要素を考えた。
<要となる5つの要素>
1)総合的なケアを提供すること
2)地域社会に根ざした形で行なう
3)看護師が主導で行なっていく
4)介護を行なうチームが自ら決定し行動する
5)事務作業はできるだけ減らす
その結果として10年経ち大きな成功を収めることになった。看護師は1万人を超え、収益は3億2,000万ユーロを超えた。
ビュートゾルフモデルにおいて、もっとも重要な成功のための7つの要因がある。
<成功のための7つの要因>
1)看護師が中心であること。看護師がハッピーなら患者もハッピーになれる
2)最大12名の看護師で構成され、5,000~10,000人のコミュニティーとする。コミュニティーーのなかで看護師も生活する
3)患者と密なコミュニケーションを図るため、チームの看護師ですべてのサービスを提供する
4)ネットワークの活用。多くのリソースをコミュニティー内で活用する
5)スリムな管理体制。看護師チームにマネージャーは置かない。チーム全員が患者と接して情報共有する
6)組織、コミュニティーごとのチームをまとめるための強力なITを用意する。看護師はiPadをパートナーとして活用し、1万人の看護師とのコミュニティーと繋がり、アドバイスを受けることができる。評価や課金、スケジュール管理にも使われる
7)標準化する。不必要な事務時間、費用を使わない。ムダを省きクオリティマネージメントに重点を置く
目指すのは、できるだけ患者に自立自活させること。寝たきりでも多くを自分でやれるようにしていく。患者は自立したいと思っている。
コミュニティーにはインフォーマルなネットワークの方々に参加してもらうことが重要になる。家族であったり、ご近所の方などに参加してもらえるよう工夫をしていく。
オランダでも日本でもそうだが、看護師は不足している。発想を変えて、看護時間を最低限に抑えることを前提としたプランを作成していった。
患者が自立するための支援とすることで、時間が経つごとに健康状態が改善していく。そして看護師のケアは減少していく。その結果、オランダでは85%が3ヵ月後には看護師のケアが必要なくなっている。
オランダでは患者や家族から不満などを申し立てできる公的な機関がある。平均年間50件あるとされているが、ビュートゾルフは1件も苦情は出ていない。
成果と実績としては、多くの看護師がビュートゾルフ転職してきている。自立して働けること、チームスピリットなど、満足度が高い。オランダの全業種を対象にした雇用者賞を4年連続で受賞している。また利用者の満足度も高い。再入院率は、市場平均に比べるとかなり低い。そしてお金を負担する政府や保険会社の満足度も高い。ビュートゾルフが市場の標準化モデルになってきている。
現在アジアでは、中国と日本でビュートゾルフモデルの提供が始まっている。そのほか準備を進めているのが7ヵ国ある。その国に適したサービスのあり方を検討し、フランチャイズで提供していく。
日本では今年11月にビュートゾルフ・サービス・ジャパンを設立した。看護師がやりがいを持って専門性を発揮できる場としてサービス提供していく。
『Health 2.0 Asia – Japan 2016』を振り返って
昨年に続き、今年も2日間参加いたしました。改めて「Health 2.0」の立ち位置を考えたいと思います。
米国ではモバイルヘルスに関するカンファレンスは、「Health 2.0」の他にも「mHealth Summit」などいくつかあります。日本でも「ITヘルスケア学会&モバイルヘルスシンポジウム」などが挙げられます。
「Health 2.0」と「mHealth Summit」がスタートした2008年頃は、それぞれもっと明確なコンセプトやテーマがありました。しかし、ここの数年はモバイルヘルス、デジタルヘルス、IoT、AI、ロボットなど、どのカンファレンスも「ヘルステックに関連する新しい動きが紹介される場」となっているように見受けられます。それは、時代の変化と共に最初に定めたコンセプト、テーマだけでは括れなくなっているためだからなのでしょう。
ではこのまま、すべてのカンファレンスがヘルステックに関わるものならボーダーレスに紹介する場で良いのか?
mHealth Watchの視点としては、それぞれのカンファレンスのコンセプトに立ち返り、現在に合わせて再定義した上で多くのヘルステック事例を紹介してもらうのが望ましいと考えます。
「Health 2.0」の出発点は、専門家からの情報だけの環境(Health 1.0)から、体験者である患者やその家族の声を活かす環境(Health 2.0)へのシフトでした。もちろん、それだけに囚われる必要はありませんが、それに共感した人々によって支えられた「Health 2.0」なのですから、今に適した「Health 2.0」とはなにかを、改めて示してくれると、より魅力的な場(コミュニティー)へと発展していくのではないでしょうか?
皆さんのご意見、ぜひお聞かせてください。
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