去る7月13~14日の2日間、東京都内で医薬品コマーシャル関連事業に携わる方々を対象としたカンファレンス『eyeforpharma Japan 2016』が開催されました。1日目では、朝9~18時まで3つのセッションが行なわれました。今回は、セッション2と3それぞれ各1名のスピーカーのプレゼンテーションをレポートします。(取材・文:渡辺武友)
セッション2:マーケティングと営業の効率化を高めるためのデータ収集、分析とアウトプット
■デジタル化が生み出す新たなコミュニケーションの可能性
金生良太氏(ファイザー株式会社 ファイザー GEP COE統合マーケティング部 部長)
情報に関する環境は、医療従事者の間でも一般ユーザーと同じように変化してきた。デジタルに接触する時間が圧倒的に増え、今までMRを通して得ていた情報も、かなりデジタルが担ってきている。
一方でデータ量が急速に増えている。なかには自動生成される情報もあり、活用されないデータも非常に多くなっている。すでに消費できない情報量になってきたと言える。そのため、本当に欲しい情報が取りづらくなっている。デジタルの世界では、顧客が短気になりがちで、離脱が早いとの特性がある。欲しい情報がより手に入らない、いらない情報が溢れている、という状況になってきた。
今後、どのようにユーザーに情報を届けていくべきなのか? タイミングやコンテンツ精度を高めていかなければならない。顧客に届けたい情報を発信することから、顧客が欲しいタイミングに口元まで情報を持っていくことが必要になってきた。プッシュ型からプル型の顧客視点に変えていく。そのためには顧客のモーメントをしっかり捉えることが重要になる。なぜそうなっているのか、深く理解しなければならない。
そのためにどうやっていくのか? ファイザーでは、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を活用している。属性データ(WHO)、デジタル上の行動データ(WHAT)、そしてもっとも重要なのがインテンションデータ(WHY)である。例えば医師が専門分野の最新情報を検索し、情報を閲覧して数分で離脱した場合、なぜ離脱したのか知る必要がある。十分に理解できたのか? 必要な情報がなかったのか? を見極めなければならない。WHO、WHAT、WHYを掛け合わせて見られるようになれば、マーケティングプラン最適化の大きな力になっていく。
もうひとつが顧客のセグメント。セグメントする時、目に見えるものに頼ってしまう。もっとバックグラウンドまで検討していくことが求められる。今見えているもの、知っているものだけで顧客を判断しても、意味のあるマーケティングにつなげにくい。データを起点に考えるのではなく、なにをしたいのか? から入ることを忘れてはいけない。また、データは組み合せないと意味のあるものは見えてこない。データだけでなにかを知るのは難しい。顧客の観察が重要になる。顧客の本質は人対人。血の通ったデジタルを目指すべきだろう。
セッション3:地域包括ケアで変化する医療システムの見取り図をつかみ、製薬業界がどう変わるべきかを検証
■アイトラッキング(視線計測)を活用し、高度な医薬品情報の伝達を最適化~地域包括ケアで多様化するターゲット層とコミュニケーションするために~
蜂巣健一氏(トビー・テクノロジー株式会社 代表取締役社長)
地域包括ケアシステムで、3つの広がりがある。販売チャネル、薬管理者、そしてサービスの広がり。それによりコミュニケーションが多様化するであろう。アイトラッキングは、人とモノとのコミュニケーションに役立てられる。
アイトラッキングとは、人がどこを見ているのか測定する技術。「見る」には中心視野と周辺視野がある。アイトラッキングでは、人が注意や興味、相関性がある中心視野で角膜反射法を使って計測していく。角膜反射法を使うことで、被験者に負担をかけないようになった。
アイトラッキングは、調査に役立てることができる。通常のインタビュー調査などでは、回答する際に適切な回答をしようと考えてしまうことがあり、真実とかけ離れたことを答えてしまうことがある。そこで間接的に聞く方法が発展してきた。そこに生理・生体計測を取り入れたのがアイトラッキングだ。これにより意識していない部分をインプットとして測定できる。例えば、調査時に属性を分けた時、あるいはポジティブとネガティブなど、ふたつのグループに別れれば、アイトラッキングにより、その差を徹底的に見ていくことができる。ものを見比べる時に、視線の持って行き方などに差が生まれてくる。
また、他の調査では、初心者が熟練者にノウハウを聞くのが難しい場など、アイトラッキングにより熟練者の暗黙知を抽出していくことで、技術の継承に役立てることができる。
アイトラッキングのもうひとつの活用方法がインターフェイスである。目の動きでパソコンを動かすなど。ASLなど、手足を動かすのが困難な人々に利用してもらうことができる。すでにこのようなパソコンは、10年前から約2万台販売されている。そこから派生して、タブレットや車の操作などに発展してきている。
医療、製薬においては調査のニーズが多い。薬剤師が処方薬の取り間違いを防ぐためのパッケージ表現を最適化すること。MRが持って行くツールが、医師にとってどのような情報の見せ方が理解しやすいか、などを見極めていくことができる。その他、Webページにおける視線の移動による理解度を測ることなどに役立てている。
アイトラッキングを活用し、いろいろなデータを組み合わせることで、先行性など予測できるようになっていくだろう。
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