2023年12月11~12日の2日間、室町三井ホール&カンファレンス(東京都中央区)にて『Healthtech/SUM 2023』が開催されました。
mHealth Watch取材のレポート第3弾はピッチコンテストの模様をお届けします。
レポート1の冒頭でお伝えしたように、ピッチコンテストのレベルの高さには驚かされました。「面白いアイデアを具現化しました」といったものではなく「すでに市場で評価され、今後ビジネスとして伸びていく」といったレベルが求められるようになり、その要求に答えるベンチャーがファイナリストとして選ばれていました。
レポート3では、ピッチコンテスト各受賞者とその受賞したビジネスのプレゼンをレポートします。(取材:渡辺武友)
Pitch Competition ピッチコンテスト
審査員:
柴原慶一氏(株式会社アンビスホールディングス)
藤本宏樹氏(住友生命保険相互会社)
矢崎弘直氏(EY Japan株式会社)
曽山明彦氏(一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン)
南知果氏(経済産業省)
Matthew Holt氏(Health2.0)
石見 陽氏(メドピア株式会社)
横松知咲子(医師)
ファイナリスト:
古津瑛陸氏(株式会社Lacus)
保田浩文氏(株式会社HealthCareGate)
渡邊愛子氏(株式会社Josan-she’s)
谷内要亮氏(株式会社wish-alize)
上田遼氏(株式会社Wrusty)
松岡俊祐氏(General Prognostics Inc.(GPx))
佐藤洋一氏(iSurgery株式会社)
後藤広明氏(リブト株式会社)
ライフサイエンス賞
産院とご家庭を繋ぐサービス「助産師シェアリングプラットフォーム」
/渡邊愛子氏(株式会社Josan-she’s)
産後に夫婦関係が悪化した割合は60%。産後クライシスになると20年以上関係が修復しないと言われる。原因の1つが妊娠、出産のプロセスにある。
入院から産後までの1週間しか助産師によるケアは行われない。助産師からの育児ノウハウはこの入院中に母親だけが受けられる仕組みになっている。
女性に子育ての負担が偏ったままのため、2人目の出産に壁を感じてしまっている。
このまま出産率が下がれば、産院も顧客獲得を強いられる。
産院も本来は来てくれた人と関係構築をして、長期的関係を築きたいと思っている。
しかし助産師獲得が難しく思ったような活動ができていない。
産院に勤務していないフリーランス助産師が多く登録するJosan-she’sは、産院の委託を受け、退院後も継続して産後ケアとなるサポート・指導を母親だけでなく夫婦に行う。
LINEで相談ができたり、訪問によるサポート・指導を提供する。
経過をレポートとして産院に提供することで産院からもフォローを行い、顧客との関係作りに役立ててもらえる。
ビジネスモデルはBtoBtoCモデルとなる。
まずご家族は分娩費用据え置きでサービスが受けられる。産院のJosan-she’sへの支払いは、入院費1日削減してお釣りが来る程度に設定した。
産院は入院日数削減により、ベッド回転率の向上で追加売上が見込める。また長期間の寄り添いにより顧客満足度の向上がはかれる。
今後は、産後から育児期、妊活期、妊娠期へとサービスを展開していき、もう一人産みたい世界を実現していく。
EY Japan賞
嚥下機能障害の診断を在宅や外来で実現する「ポータル内視鏡」
/後藤広明氏(リブト株式会社)
現在高齢者3,600万人中26万人が口から食べることができない。
原因は誤嚥性肺炎を繰り返すため。現状4万人が誤嚥性肺炎で亡くなっているため、食事を諦めることになる。
介護支援研究会の福村直毅医師から飲み込み障害を検査する内視鏡カメラを作って欲しいと、色々な企業に相談に行くも、どこも対応してもらえなかった。
社会的意義と福村医師の想いに応えるために、リブトでは「ポータブル内視鏡」を開発に取り組むこととなった。
対象者は、普段の食事をしているときに検査をしないと緊張してしまって誤嚥しやすい。できるだけ普段の食事のときに検査を行うことが必要なため、持ち運べるサイズの内視鏡が求められた。
実際の医療機器開発には時間もコストもかかる。そこで開発に向けての資金は医師から借入、多くの医療者にサポートそしてもらうことで開発することができ、現在はISO13485、医療機器製造販売業取得するまでになった。
国内診療報酬は600点から720点になり、13年かかって1,000を超える医療機関が参加してもらえるようになった。
しかし、まだ対象者に対し、検査できる医療機関が少ないのでもっと広げていく必要がある。今後は外来病院、クリニックへの導入を目指す。
最後まで口から食べる社会を実現に向けて、今後も取り組んでいく。
アンビスホールディングス賞
慢性疾患重症化予防のSaMD: Bloodless Blood Tests
/松岡俊祐氏(General Prognostics Inc.(GPx))
慢性疾患向けにスマートウォッチを使ってモニタリングする「GPxのアルゴリズム」を開発した。
通常のスマートウォッチでは多くのノイズを含んでしまうため、医療レベルで使うことができないが、GPxでは血液と結合することで一切のノイズを削除すること成功した。
これにより一般的なスマートウォッチが医療機器と同等、もしくはそれ以上の感度・精度を実現した。
心不全の場合、現状では重篤な患者しか遠隔モニタリング(植込み型デバイス)ができず、多くの患者が心不全管理と服薬順守ができていないため、再入院を繰り返すことになる。
頻繁に血液検査(NT-proBNP)を行うことが有効(週次での確認が理想)とされているが、実際の医療現場では年に2回程度しか行っていない。
一般的なスマートウォッチを使って「GPxのアルゴリズム」により症状の確認ができるようになったため、重篤患者以外にも適切な検査が可能となり、早期治療、再発防止に役立てることができる。
「GPxのアルゴリズム」は実証実験の結果、植込み型デバイスを上回る感度・精度を実現した。
ビジネスモデルとしては、まずアメリカから始める。FDA取得後に有償提供、保険償還の申請を行う。もちろん日本でも展開していく。
一般的なスマートウォッチを活用できるので、発展途上国などでの展開も可能となる。
すべての慢性疾患を抱えた患者、およびその家族が安心して生活できる世界を目指していく。
最優秀賞
胸部X線写真から骨粗鬆症を検査するAI医療機器
/佐藤洋一氏(iSurgery株式会社)
骨粗鬆症は大きな課題であると認識しているが、残念ながら骨粗鬆症検査が進んでいない。
骨密度は年と共に減少していくが、早期発見により早期治療が可能となり、骨密度を保つことで骨折を予防できる。結果として医療費削減につながる。
骨粗鬆症の治療介入率が低い理由は、骨密度の追加検査をしなければならないためである。医療機関にとっても受信者にとっても手間がかかる。
そこで追加検査を必要としない、一般的な検査を利用して診断する医用画像解析ソフトウェア「Chest Bone Indicator」を開発した。
iSurgeryが開発したのは、胸部X線のレントゲンを使うことで骨量の評価を可能とするものである。
AI開発のため、多くの医療施設に協力いただき、50施設で約6万件の医療データを取得した。
最終的に従来の骨密度測定機器と同等以上の精度を出すことができた。
「Chest Bone Indicator」を導入すると通常のレントゲン検査を行うと約5秒で検査結果を表示することができる。
2023年4月18日に約次認可を得て販売を開始し、半年で46施設に導入され、26,000件の検査(保険診療、健診等)が行われてきている。
2025年に保険点数取得を目指し、4,000施設導入を目指す。
さらに国内に留まらず、世界市場(約7.5兆円)に向けて展開していく。
骨粗鬆症の治療介入率が低い現状を改善し、早期発見により早期治療実現していく。
Comments are closed.