2020年9月12日(土)~13日(日)の2日間、ウェビナーにて『Mobile Health Symposium 2020』が開催されました。
レポート【1日目-1】(リンク)では、COVID-19における政府の対応、今後の医療デジタル化の可能性について紹介しました。
レポート【1日目-2】では、0410対応で促進される医療デジタル化を支援する企業の取組み、自治体ごとの現場での対応を紹介していきます。(取材・文:渡辺武友)
1「LINEによるスマートフォンを使ったオンライン健康相談の取り組みと医療サービスの未来」
室山真一郎氏(LINEヘルスケア株式会社 代表取締役社長)
LINEはメッセンジャーとして、クロージング・ザ・ディスタンスをミッションに人とサービス、人とプロダクトの距離を縮めようと活動している。昨年から“Life on LINE”を掲げている。
LINEは現在、8,400万人に使ってもらっている。これだけの大きなマスに対しアプローチできるだけでなく、1対1でユーザーとコミュニケーションができるサービスが特徴となる。
では、なぜヘルスケアなのか?
多くの人にとって、医療にかかるのは“非日常のできごと”になる。非日常の中で専用のアプリをダウンロードして、使い方を模索してとなるとハードルが高くなってしまう。非日常だからこそ日々使っているものの方がよいと考えた。使い慣れたLINEを使ったヘルスケアに取組むため、2019年1月にエムスリー社との合弁でLINEヘルスケアを設立した。
LINEヘルスケアは、オンラインとオフラインを融合したNo,1ヘルスケアプラットフォームをビジョンとしている。
当初は「オンライン診療」を中心に考えたが、0410対応以前は非常に厳しいレギュレーションだったため提供していくことが難しかった。そのためまずは『遠隔健康医療相談サービス』からスタートした。
我々が提供していきたいサービスは、「オンライン診療」に留まらず、オンラインで薬も受け取れる(オンライン服薬指導)ものにしていく。将来的にはオフライン、オンラインが融合した支援をしていきたいと考えている。
現在提供しているのは、厚生労働省のガイドラインに従い「遠隔健康医療相談(医師)」として『遠隔健康医療相談サービス』を提供している。
『遠隔健康医療相談サービス』は、LINE上で医師に健康相談ができる。2019年12月にAndroid版、2020年1月にiOS版をローンチした。内容はLINEの上で医師に健康に関する相談ができるもの。LINEの友達に医師がいるように気軽に相談できる。1回に健康不安を3つ相談できる。診療診察行為ではないがNPSが約90%と高い評価を得ている。友だち数780万人に上る。半年で30万件の相談リクエストを得ている。
COVID-19における活動としては、ダイヤモンドプリンセス号でクラスターが発生し多くの乗客が船内に隔離されたとき、2,000台のiPhoneを提供し、乗客へ『遠隔健康医療相談サービス』を使って医療相談を行った。
また厚生労働省の公式アカウントより無料相談の実施、経済産業省による健康相談窓口に採択し、無料健康相談を実施した。
4月10日に厚生労働省より発出された「オンライン診療に関する時限的緩和処置」により、LINEヘルスケアでも「オンライン診療」に舵を切ることになった。
「オンライン診療」における推計データを見ていくと、体調不調を感じた人が1日に700万人いる。その中から高齢者などオンライン診療の向かない人を除いても500万人程度はいる。その内半数の250万人が医療機関に行き、残り半数は様子をみているという状況である。
LINEヘルスケアでは医療機関に行くであろう250万人をオンライン診療に、残り半数が『遠隔健康医療相談サービス』を使ってもらえるようになると考えている。
M3と共同で5月に医師にアンケートし、約2,000名に回答いただいた。
「オンライン診療」の導入は3割程度あった。「オンライン診療」で何を使っているのかを確認すると、電話が78.7%、続いてLINEが11.9%利用されていた。特定のオンラインサービスではなく、普段利用されているLINEが使われていた。
なぜ「オンライン診療」を導入するのかを確認すると、院内感染リスクの低減がトップであった。
現状「オンライン診療」を使っている人の悩みとしては、患者側の利用がスムーズでない(23.4%)ことが挙げられた。まだ導入していないところでは、導入コスト(46.3%)、診療体制の構築(35.8%)が高かった。
今年11月からオンライン診療サービス『LINE ドクター』がスタートする。
現在、参加クリニックに事前登録がはじまっており、多くの医療機関から申込みを頂いている。
『LINE ドクター』のベーシックプランのフローはシンプルなものとなっている。
<『LINE ドクター』のフロー>
1) 不調のとき『LINE ドクター』にアクセス
2) クリニックを検索・予約する
3) LINEビデオ電話を使って診察してもらう
4) オンライン上で決済を完了する
ベーシックプランでは、患者側には利用手数料0円。クリニックへは初期費用、月額利用料0円で提供する。(決済手数料のみ有料)
LINEヘルスケアは、医療におけるテクノロジーの役割はOMO(Online Merges with Offline)だと考えている。オンラインだけで解決ものではなく、オフラインと融合することで、患者が最適な方法をとって健やかな生活を実現することをサポートしていきたいと考えている。
2「ソフトバンク発のヘルスケア事業:一気通貫のオンライン健康医療相談サービス『HELPO』の展望」
大石怜史氏(ヘルスケアテクノロジーズ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO)
ソフトバンクとして「テクノロジーの進化で、あらゆる産業が再定義される」と考えている。日本が抱える社会課題に対し、ソフトバンクだけで解決できるとは思っていない。共創が必要と考えている。そのためにデジタルトランスフォーメーション本部(以下DX本部)が創設され、通信事業の次の柱を作るための活動と位置づけ検討を進めてきた。その中の一つに医療・ヘルスケア領域の課題を解決するプロジェクトがある。
<DX本部で検討してきたヘルスケア領域における課題>
・医師の過重労働 71% ※1
・行政で増大する医療費負担 16兆円 ※2
・国民の通院のハードル(待ち時間等) 43.2% ※3
※1:厚生労働省 医師の働き方改革に関する検討会報告書 (400床以上の病院における割合)
※2:厚生労働省「平成 29年度 国民医療費の概況」
※3:厚生労働省「平成 29年受療行動調査(概数)の概況」
この中でも特に注力して課題解決に取り組みたいと考えているのは「行政の医療費負担の増大」である。今後医療費が膨らみ続ければ、国民皆保険の維持が困難になる。この課題に対しソフトバンクとして何が貢献できるのか考え、健康維持の支援や疾病の症状が深刻になる前に食い止めるための取組みを行っていくこととした。
ヘルスケア領域のDXを実現するために、医療・健康情報を一元管理するプラットフォームを構築し、医療の生産性向上や健康寿命向上に貢献したいと考えている。
こうしてソフトバンクで新規ビジネスを行う企業として設立されたのが、ヘルスケアテクノロジーズである。ヘルスケアテクノロジーズとしては、身体に関する様々な情報が集まり、個人にあったヘルスケア情報や健康維持・改善のソリューションを提供する、ヘルスケア・プラットフォームの構築を目指している。
まずはじめに「オンライン健康医療相談サービス」を提供する。チャットによる健康医療相談、病院検索、一般用医薬品などのECサイトを一つのアプリの中で提供していく。
「オンライン健康医療相談サービス」は病気の予防・健康増進に効果があると考えているが、次の課題となる医療においても貢献できると考えている。今後は、最適な医療としての「オンライン診療」「オンライン調剤」「AI問診」の支援サービスに取組みたい。
上記健康医療相談サービスを『HELPO(ヘルポ)』と名付け法人、自治体向けに7月29日にリリースした。
ヘルスケアテクノロジーズ所属の医師、看護師、薬剤師に24時間いつでも健康医療相談ができるもので、病院での受診を希望する場合は、「病院検索」で条件に合った病院が検索できる。さらにECサイト「ヘルスモール」では一般用医薬品や日用品などが購入可能。地域、時間によって当日中、最短3時間での配送もできる。
今後は「オンライン診療」「オンライン服薬指導」「処方薬配送」などの支援サービスも検討していきたい。加えて、法人企業には特定保健指導の支援も検討している。
ヘルスケアテクノロジーズの事業構想における領域は、「健康」「未病以上医療未満」「医療」「介護」と分類する中で、現在は「未病以上医療未満」となり、今後は「未病」「医療」に展開していく。
OVID-19対策としては、ソフトバンクグループ内に新たに設立された新型コロナウイルス検査センター株式会社があり、ヘルスケアテクノロジーズが、検査後のユーザーへの通知やアフターフォロー支援などサポートしていくことで調整している。
3「都市部におけるオンライン服薬指導から見えた可能性」
渡辺大樹氏(千葉市役所 国家戦略特区推進課 主査)
国家戦略特区の枠組みでは全国で初となる、オンライン服薬指導の取組みを行った。
国家戦略特区とは、“世界で一番ビジネスをしやすい環境”を作ることを目的に、地域や分野を限定し、大胆な規制・制度の緩和や税制面の優遇を行う規制改革制度である。千葉市は第3次指定として2016年に指定を受けた。
国家戦略特区には、規制改革メニューが71あり、千葉市では自動運転モビリティやドローンによる運搬など7つに取り組む。
千葉市が取組む「特区オンライン服薬指導」とは、過疎地域に限られた「オンライン服薬指導」が、規制緩和により都市部でもできるようになったものである。
千葉市では、都市部でも通院できない人は多いことから、その対応としてオンライン診療、服薬指導、薬の授受まで行うオンライン医療の実現を目指した。
「特区オンライン服薬指導」の主な実施要件は、「市内居住の患者」「対面以外の方法で診察」「市内の登録薬局」「服薬指導計画への同意」の4つである。診察方法は電話による指導も含まれる。
<「特区オンライン服薬指導」登録後の診察から配送までのフロー>
1) 診察(対面以外)
2) 特定処方箋の送付
3) オンライン服薬指導
4) 薬剤配送
実績として登録薬局数は8月末までに41薬局となった。
患者の利用者報告数は17人。患者数は9人。実施回数(述べ)21回であった。COVID-19感染者が増加してから実施回数が増加している。
利用した患者にアンケートを行い、9人中5名が回答してくれた。年代は20代未満から80代までと広い層が参加した。疾患は高血圧症、喘息、自律神経失調症など様々な疾患であった。
「オンライン服薬指導」におけるアプリの操作感については、全員簡単かとても簡単と回答した。
対面と比較して「オンライン服薬指導」による内容の理解度は、全員対面と変わらないと回答した。
処方薬の受取方法は、宅配が3人。薬剤師による持参が2名だった。
「オンライン服薬指導」の満足度は、3名が満足。2名が普通と回答した。
継続意向は、4名がはい。1名はいいえと回答した。いいえと回答した人は、薬剤の配送料が高いとコメントしていた。
<都市部における「オンライン服薬指導」の効果>
・コストの減少(移動など)
・リスクの低減(感染症等のリスク)
・患者以外の負担の軽減(家族が車に乗せるだけでも大変など)
<都市部における「オンライン服薬指導」の課題>
・費用(送料、まだ利用が少ないため割高)
・薬剤受取り(会社やコンビニでの気軽な受け渡しを求める中、確実な受け渡し)
・医療機関とのさらなる連携(診察とオンライン服薬指導にタイムラグが生じること)
<今後の展望>
・0410対応(時限的緩和措置となるが当面は継続すると想定している)
・改正薬機法施行による「オンライン服薬指導」の解禁(国家戦略特区としては改正薬機法より柔軟に対応できる)
・ニーズ多様化への対応(ニーズとしては「安心」「省力化」「柔軟性」が考えられる)
都市部における「オンライン服薬指導」を定着させるためには、千葉市としてのミッションと「新たな選択肢としての普及・啓発」「さらなる利便性向上」「一気通貫サービスの推進」を行っていく。
同日に自治体の取組みとして「長野県伊那市による、モビリティを活用して提供する医療MaaS」、兵庫県養父市による「自宅完結型インフルエンザオンライン診療」が紹介されました。
いずれも地域の課題、環境に合わせた取組みであり、このような柔軟性を持った取組みにすることで、オンライン医療がその地域に根ざしたものになっていくと思われます。
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