『mHealth Watch』では、ここ最近で公開されたニュースから「注目ニュース」をピックアップし、独自の視点で解説していきます。
今回注目したニュースはこちら!
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“製薬会社の次のステップは、治療薬としてのデジタルヘルス”
先日開催された「HIMSS Connected Health Conference」で、Partners HealthCareのコネクテッドヘルス部門バイスプレジデントJoseph Kvedar博士は、「製薬企業は、治療法としてデジタルヘルスの提供を検討し始めている」と語った。
Kvedar博士によると、数年前まで製薬会社のマーケティング部門は、デジタルヘルスツールを治療薬の販売時に使える程度のものとしか見ていなかったが、デジタルヘルスツールを治療サービスとして考えるようになっているという。
Kvedar博士は、「最近ではさらに進んでいます。治療の重要な部分であるパッケージやアプリの一部としてウェアラブルを追加する例が多く見られるようになっています。アプリやウェアラブルのようなツールが、治療で成功を収めているという事例がもたらされています。この世界については違った見方をしなくてはいけないですし、身体を良くするために必要なのは、薬だけではないのです」と述べた。
少なくともKvedar博士が所属する組織は、製薬会社と協力してなんらかのサービスを生み出している。2年前、Connected Health Centerは、第一三共と提携して心房細動患者をモニターするモバイルデバイスを提供するようになった。
「これほど大きな企業に、一緒に何かをしてみたい、と言われるのは正直初めてのことで、とても興奮を覚えています」
Kvedar博士は、さらに共同開発したアプリを治験に応用しようとしているという。その効果がどれほどかがわかるデータはまだないものの、将来を楽観視している。Kvedar博士は、ひとつの仕事が終われば、第一三共は自社のサービスをオープンソースで提供するだろう、と語った。
「ここには新しい経済の考え方があります。私はこれについていろいろ考えてみましたが、思うほど正確には語れません。それはテック業界が、これをどのように実践しているかがわからないからです。でもご存知のようにFitbitのデータは他のウェアラブルと共有できますし、たくさんのオープンAPIがいろいろなものとシェアされています。この経済では、共有することに問題はない、という一種のメンタリティーがあります。特に、テック業界ではそれが言えるようです。ですから『この動きを支持する』という上げ潮が、人々のボートを引き上げるような、新たな製薬モデルが現われる可能性があります」
こうした変革が起こるには、時間がかかるかもしれない。それは製薬会社にとって、現在のビジネスモデルから逸脱するのが困難だからだ。
「長い現行システムでうまくいっているヘルスケアプロバイダーは、変革するのが難しいのです。旧来のビジネス手法で製薬会社が稼いできたマージンは、とてつもないものです。だからこそ、変革が難しいのは想像に難くありません。このようなことを真剣に考えさせられる事例もあります。いまや、『当社の薬をいくらか宣伝してくれるようなアプリを送り出すことでマーケティングの要素を追加するとどうなるか見てみよう』というような段階ではなくて、いくつか進むべき道がある状況です」
ただし彼は、企業がひとたびデジタルヘルスを治療法として活用することができるようになれば、より多くの製薬会社がそのメリットを感じるようになるだろう、とも述べた。
記事原文はこちら(『mobihealthnews』11月13日掲載)
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『mHealth Watch』の視点
今月は各地でヘルスケアカンファレンスが開かれています。米国では「mHealth Summit 2015」、この記事でも紹介している「HIMSS Connected Health Conference」が、日本でも「Health2.0 ASIA – Japan」が開催されました。
毎年、各カンファレンスに注目していますが「今年は少し変わってきたのでは?」と思えた点があります。製薬会社のデジタルヘルスに向かう姿勢です。
この記事の内容と同じく、「Health2.0 ASIA – Japan」に登壇したMSD社の諸岡健雄氏も「これからの製薬会社は処方薬の製造販売に限らず、周辺も含めた新たな取り組みが必要と思っている」とコメントしていました。
もちろん、数年前からどのようなことができるか検証している企業も多いです。昨年開催されたGames For Healthでは、Akili Interactive LabsのようにPfizerが提携し、アルツハイマー病の早期発見に役立てるゲーム『Project EVO』の効果を検証する実証実験を行なっているケースもあります。
現状、各製薬会社の取り組みからは、処方薬に匹敵するビジネスモデルは発表されていません。まだ模索は続くでしょう。少なくとも想定されるのは、1プロダクトとしてよりも、ユーザー自身が取り組む“サービス”になってくるのではないでしょうか? テーマとして病気の予防、改善するための行動などが考えられます。
この流れは、予防領域でビジネスを行ない、ノウハウが貯まっている企業にはチャンスではないでしょうか? 製薬会社がサービスを検討していっても、おそらく予防サービス企業が経験した課題にぶつかり、先駆者のノウハウを求めるようになるからです。
これからも自信を持って、ユーザーニーズに応えるサービスを追求していきたいですね。
『mHeath Watch』編集 渡辺 武友
株式会社スポルツのクリエイティブディレクターとして、健康系プロダクト、アプリ、映像などの企画・制作ディレクションを手掛ける。「Health App Lab(ヘルスアプリ研究所)」所長として健康・医療アプリの研究発表を行う。またウェアラブル機器、ビジネスモデルの研究を行ない、健康メディアでの発表や、ITヘルスケア学会 モバイルヘルスシンポジウムで講演を行う。
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