『mHealth Watch』では、ここ最近で公開されたニュースから「注目ニュース」をピックアップし、独自の視点で解説していきます。
今回注目したニュースはこちら!
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“デジタルヘルスの導入にヘルスケアプロバイダーが必要とするもの”
コンサルティング業務を行うSimon-Kucher社のシニアマネージャーであるKay Schultze氏とパートナーのJan Bordon氏は、最新のデジタルヘルストレンドに関する報告と、ヘルスケアプロバイダー(医療従事者)らがデジタルヘルスにどのように期待しているかについてMobiHealthNewsからの質問に回答した。
MobiHealthNews:医療従事者の関心およびこれらツールの普及について、現状はどのようなものだとお考えでしょうか?
Jan Bordon:私は、患者中心のソリューションと医療従事者中心のソリューションを区別する必要があるかもしれないと考えています。患者中心のソリューションとは、デジタルセラピューティクス(DTx:デジタル治療薬)処方や患者による使用を意図したソリューション処方に関するもので、対して医療従事者中心のソリューションとは、医療従事者が診断を行ったり、より詳細な情報を得たうえでの決断を下したりする際にソフトウェアやAIアルゴリズムを使用している場合のものです。
私は当研究の重点分野の1つでもある、患者中心の立場から考えて、医療従事者の中にも大きな違いがあることが分かりました。あまりオープンではなく、治療の選択肢としてデジタル治療を取り入れることに非常に懐疑的であるような遅滞層の医療従事者はいまだに存在します。一方で、デジタル治療を熱心に推進している医療従事者もおり、彼らは前者よりも若手が多く、自信を持ってデジタル治療を推奨しています。両極端にいるのはこれら2つのタイプです。
さらに、中間的な立場を取る多数派集団として、私たちが慎重な冒険家と呼んでいる集団もあります。彼らはもちろんデジタル治療について耳にしたり、文献を読んだりしたことがあります。しかしデジタル治療について、いまだいくらかの疑念を抱いており、説得する必要があります。したがって、慎重な冒険家集団と遅滞層をひとまとめにすると、私たちの研究に参加した医療従事者の70%近くがここに分類されると考えます。
つまり、これら門番のような存在の医療従事者は依然として大勢いるということです。彼らは門番であり、患者は依然として彼らに従うのです。患者はGoogleやChatGPTのような情報源から情報を得ていても、依然として医療従事者を最も信頼しています。しかし、2/3の医療従事者がデジタル治療にまだ納得していなかったり、潜在的なソリューションを知らなかったりした場合、発行できる処方箋の数は限られます。
私の見解では、慎重な冒険家の多数派集団を本当に説得するのには時間がかかります。遅滞層に関して、デジタル治療を強く推し進め、反対派から転換させるのは非常に難しいだろうと私は考えます。一方で、慎重な冒険家らが変化を起こしてくれるだろうとも考えています。
Kay Schultze:確実に前向き傾向にあるものの、私たちはまだスタートを切ったばかりだと思っています。私たちの研究結果で、医療従事者の83%が将来的にデジタルヘルスソリューションの使用が増加すると考えていることが分かりました。したがって、彼らは皆トレンドを理解しているのだろうと思います。しかし一方で、最も一般的に受け入れられているソリューションの種類を見てみると、彼らは今のところ、患者に対してモニタリングソリューションに最も大きなメリットを感じていることが分かりました。
彼らのデジタル治療の推奨や処方を阻んでいる最大の懸念点は、製品の有効性に関する懸念や疑念が依然として挙げられます。
結局のところ、付加的な利点について彼らを説得するには、政策立案者、支払人そして業界が協力することが必須です。製品の有効性に次いで、データ保護とセキュリティーへのコンプライアンスに関する責任も疑問視されています。
使いやすさについても全体的に懸念があります。アプリを使い始めた患者が、ある時突然使用をやめてしまうことがあります。すなわち、患者にとって製品は有用であっても、患者がそのソリューションを継続して使用できるようにサポートをする面での取り組みがやや手薄なのです。
MobiHealthNews:医療従事者らがこれらのツールを患者に対して積極的に使おうと思えるように、医療従事者らがこれらのツールに望んでいることは何でしたか?
Jan Bordon:まず、医療従事者からの信頼により、患者とそれらのソリューションの関わり合いが強化されます。ソリューションの使いやすさにこそ核心があると考えています。シンプルなデータ機能、アプリへの自動データ統合、シングルサインオンなどを取り入れる必要があります。
次に、患者がソリューションを自分に合わせて調整し自分のニーズに応じて使えるように、自分の目標や自分自身のことを入力できるようなパーソナライゼーションが可能でなければなりません。目標設定も関連性が高い事柄で、目標を設定することで、明確に達成可能な目標を持つことになります。これらのことにより、ソリューションは全体的にますます現実的なものになり、患者にとって具体的で実現可能なものとなります。
記事原文はこちら(『mobihealthnews』2023年5月5日掲載)
※記事公開から日数が経過した原文へのリンクは、正常に遷移しない場合があります。ご了承ください。
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『mHealth Watch』の視点!
デジタルヘルス開発が進むものの、まだまだ一部しか市場に浸透していないと思うことはないでしょうか?
その答えが今回の記事にあると思い取り上げました。ぜひ全文を記事原文から確認してください。
特に注力するなら後半に記載された
「使いやすさについても全体的に懸念があります。アプリを使い始めた患者が、ある時突然使用をやめてしまうことがあります。すなわち、患者にとって製品は有用であっても、患者がそのソリューションを継続して使用できるようにサポートをする面での取り組みがやや手薄なのです」
この指摘内容は、課題意識が低い傾向にある予防領域で最大の課題と言われてきました。それに比べて医療領域では、治したいとの意識を持っている人が集まるだろうと思われることから軽視されていた、もっと言えば、正しいサポートを提供すればやってくれると考えていたと思われてきました。
やはり医療領域だからと、すべての人が取り組むとは言えないのが実態です。改善に対する「意識レベル」に合わせたソリューションが必要になります。
例えば、今、激しい腹痛であれば、その痛みを取り除くためにすぐに薬を飲んだり、身体を休めたりするでしょう。忙しいからと、激しい腹痛を治すために3日後に薬を飲もうとは考えないものです。
それに対し痛みの伴い難い生活習慣病などは、今すぐ、改善するまで真剣に取り組もうとはなり難いものです。これが改善に対する「意識レベル」です。「意識レベル」が低ければ改善以外に興味を持たせる視点も必要になります。
デジタルはある側面はすぐに解決するかもしれませんが、テーマによってはそれだけでは不足してしまいます。現在のDTxのトレンドを改めてチェックしていただくとその点がわかると思います。
『mHeath Watch』編集 渡辺 武友
株式会社スポルツにて健康ビジネスにおけるマーケティングに関するコンサルティング、一般社団法人 社会的健康戦略研究所の理事として、ウェルビーイングの社会実装方法の研究を行う。またウェアラブル機器、健康ビジネスモデルに関する健康メディアでの発表や、ヘルスケアITなどで講演を行う。
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