『mHealth Watch』では、ここ最近で公開されたニュースから「注目ニュース」をピックアップし、独自の視点で解説していきます。
今回注目したニュースはこちら!
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“デジタル薬セクターがPear Therapeuticsの終焉から学ぶべき教訓”
Pear Therapeutics社は、ソフトウェアを医薬品として提供することで、ヘルスケアを破壊することを目指していた。同社は3つの処方薬(Digital Therapeutics:以下DTx)製品を市場に投入することに成功したが、十分な処方者と保険者の賛同を得ることにはできかった。今年初め、同社の資産は破産裁判所で競売にかけられた。
Pear Therapeuticsの倒産は、新興のDTx業界に今なお立ちはだかっており、業界はその転落から教訓を学ぼうとしている。おそらくその教訓のひとつは、破壊的であることを最小限にとどめることだろう。混乱は医療にとって良いことかもしれないが、一度に1つのことを混乱させるくらいが良いかもしれない。Pear Therapeuticsは、保険者がケアを提供する方法だけでなく、保険者が医療費を支払う方法も変えようとした。
デジタル医療協会(Digital Medicine Society)の関連プログラム・ディレクターであるSmit Patel氏は、「保険者はまだ学んでいる段階だ。今のところ、デジタル治療薬やデジタル医療製品を標準治療と比較する基準はない」と述べた。
Patel氏は、ダラスで開催された「MedCity News INVEST Digital Health会議」のパネルで講演した。同氏は、DarioHealth社のRick Anderson社長と、Lin Health社のプロバイダー成長・運営担当バイスプレジデントShira Butler氏と共に登壇した。
デンバーを拠点とする新興企業Lin Healthは、患者が痛みに対処するための技術を商品化した。それはアプリの形で、患者の痛みに対する考え方を変えるために、カスタマイズされたケアプランを案内するものだ。Butler氏によると、処方箋の道を追求するよりも、技術に対応したサービスとしてパッケージ化することで、この新興企業はより早く、より低コストで市場に参入することができたという。Pear Therapeuticsなどの企業が、処方箋によるデジタル治療薬の使用と償還において急速な成長を達成できなかったことにより、他の企業はLin Healthが追求しているような非処方箋の道をたどることになるかもしれない、とButler氏は述べた。
Anderson氏は、DTx業界は最終的に、規制当局や保険者が求める明確な道筋を持つ場所に到達するだろう、と述べた。やがて、商業化はより医薬品分野に近いものになるかもしれない。つまり、臨床段階のバイオテクノロジー企業が大手製薬会社とパートナーシップを結び、これらの技術を規制当局の審査を経て、最終的に収益を生み出す製品へと導くようになるかもしれないということだ。
「今のところ、DTxにはそれが存在しない。しかし、そうなると信じるに足る理由がある。製薬会社はいずれこの市場に参入してくるだろう。それまでの間、特にこのマクロ経済環境では、人々は他の道を追求することになるだろう」とAnderson氏は語った。
Patel氏が指摘するところによると、パソコンが40%の普及率を達成するのに20年以上かかった。インターネットの普及率が40%に達するには13年かかった。Covid-19の大流行がDTxの有望性に火をつけたとはいえ、この業界はまだ比較的新しい。
Anderson氏は、ヘルスケア技術の採用における課題の一つは、臨床医がワークフローを設定し、それを変更するのに時間がかかることであると述べた。その変化に拍車をかける一つの方法は、優れたデータを生み出すことである。DarioHealthはSanofi社とパートナーシップを結び、DarioHealthが提供するいくつかの製品を両社で共同販売している。これらの技術から生成されたデータは、新製品やサービスの開発に利用される。Anderson氏によると、SanofiはDarioHealthのデータを実際の製薬会社ベースの分析にかけたという。DarioHealthの顧客である医療保険制度や自家保険の雇用主は、これらの技術が結果を改善するという証拠を見たいと考えている。
「慢性状態は、医師の診察と診察の間に発生するものだ。それを管理する手助けができるのであれば、採用が進むと思う」とAnderson氏は述べた。
DTx分野が直面しているもう一つの課題は、この市場に参入しているプレイヤーが非常に多いことだ。一つの健康状態に取り組む技術であるポイントソリューションは数多く存在する。しかしAnderson氏は、関係者はより幅広い症状に対応できるプラットフォーム・ソリューションを求めていると述べた。Patel氏は、ポイントソリューションが増えるだけでは誰の問題も解決しないと指摘した。患者もまた、これらのプレイヤーを統合に向かわせる一助となるだろう。
記事原文はこちら(『MedCity News』2023年10月26日掲載)
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『mHealth Watch』の視点!
長年、期待が高まっているDigital Therapeuticsですが、まだまだ思ったように市場導入は進んでいません。
今回の記事では、どのようにすれば市場に受け入れられるのかを議論したパネルディスカッションの模様が紹介されています。多くのDTxプレイヤーや製薬会社にとっても関心の高いところでしょう。
DTxに限らず、新しいものであればあるほど、市場は受け入れ難いものです。それは「文化があるか?」です。
デジタル薬なんて言われれば、凄そうだなと思えても、実際に自分で使いたいかは別の話しです。今の自分にとって必要と感じさせるレベル、その人にとって当たり前に理解できるところ(文化がある)まで噛み砕く必要があります。
DTxは、まだまだ新しさ、物珍しさで売ろうとしているところがあります。今まで誕生した多くのデジタルヘルスツールが伸びていないのはなぜか?分析することで見えてくることがありますので、ぜひやってみてください。
『mHeath Watch』編集 渡辺 武友
株式会社スポルツにて健康ビジネスにおけるマーケティングに関するコンサルティング、一般社団法人 社会的健康戦略研究所の理事として、ウェルビーイングの社会実装方法の研究を行う。またウェアラブル機器、健康ビジネスモデルに関する健康メディアでの発表や、ヘルスケアITなどで講演を行う。
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