『mHealth Watch』では、ここ最近で公開されたニュースから「注目ニュース」をピックアップし、独自の視点で解説していきます。
===========================================
“研究:若者向けメンタルヘルスアプリのケアでの個別化においてAIやチャットボットを避ける理由”
新たに提供されるオンラインプラットフォームは、人工知能の利便性に依存せずに、オーストラリアの若者向けに最も包括的なデジタルヘルス・メンタルヘルス・プログラムとなる。
オーストラリア政府のMedical Research Future Fundの支援を受けているMomentum社は、7〜17歳のオーストラリア人に、一般的なメンタルヘルスの問題に対処するための治療法、ツール、技術への無料アクセスを提供している。
まず、ユーザーの状況を徹底的に評価して、支援の必要性を判断する。次に患者の状態に関連するトピックを対象としたセッションを含むパーソナライズされたプログラムを構築していく。
このプラットフォームを使用すると、ユーザーとその家族は自分の進捗状況を追跡し、セッションごとに感情がどのように変化するかを確認でき、プログラムを使用して現実世界のスキルを習得することができる。
サザンクイーンズランド大学(USQ)が率いる6つの大学とその他6つの医療業界組織の間で協同した、500万オーストラリアドル(320万米ドル)のプロジェクトは、オーストラリアで子供や若者たちに影響を及ぼしているメンタルヘルス危機の増大に対処することを目的としている。
現在、約14%のオーストラリアの若者たちが、精神疾患に罹っており、その半数がサポートを受けていないとされている。この問題は、これらの若者たちを診察する専門家が充分にいないため、悪化すると予想されている。診察待ちのリストは、長くなっており、最大12ヶ月待ちだと報告されている。
世界的な医療従事者不足の拡大に対処するため、業界はデジタルテクノロジー、特にケアを効果的に補うことが証明されているAIツールを次第に導入してきた。興味深いことに、Momentumを支えるチームは、自立したデジタルプラットフォームを作成し、AIブームに加わらなかった。
USQの教授であり、MomentumプロジェクトリーダーのSonja March氏へのインタビューでこの決定に関する詳細を調べた。また、同氏は、子供や若者たち向けの長年のデジタルツール開発を通じ、アドバイスを共有した。
Q:若者に対するMomentummの普及を、どのように推進していますか?また、どのようなパートナーシップを検討しましたか?
A:当社はMomentumをいくつかの方法で推進しています。当社はこのプロジェクトで提携組織と緊密に協力し、そのサービスを介して若者たちにリーチできるように取り組んでいます。当社のパートナーは、Kids Helpline、West Moreton Health, Education Queensland、Stride、The Darling Downs and West Moreton Primary Health Network、 Children’s Health Queenslandなどです。若者にこのプログラムを紹介する方法やプログラムを通して彼らをサポートする方法を理解してもらえるよう、当社はこのような組織と協力しています。
当社は、子供や若者が利用しやすいリソースや、組織が若者たちに配布できるカード(ポストカードやチラシ、ウォレットカードなど)を作成しました。また一般医や心理学者、学校、そしてソーシャルメディアを介してこれらの資料を広めています。他にも、当社の他のプログラムで以前行ったように、Momentumに関する情報を、Beyond Blue、ReachOut 、 子育てサイトなど他のメンタルヘルスサイトに統合するために協力しています。
Q:プラットフォームの普及を促すためにゲーミフィケーションやインタラクティブな手段の導入を検討しましたか?また、チャットボットやAIの利用も検討しましたか?
A:当社は20年間に渡り、オンラインプログラムを構築し、テストをしており、インタラクティブで魅力的なプログラムを作成するためのさまざまなオプションを調査してきました。ゲーミフィケーション及びインタラクティブ性と、プログラムを啓発的で教育的なものに保つこととの間にバランスが必要であることに気がつきました。若者はゲームで容易に注意散漫となり、これはプログラムで学んでいるテクニックの妨げとなる可能性があります。プログラムはシンプルな報酬を含み、進歩するにつれて若者たちはバッジを獲得することができます。プログラム内のアクティビティーも、動画、クイズ、ドラッグアンドドロップのようなタスクなど、同様にインタラクティブであるため、若者たちは単に資料を読んでいて飽きてしまうということはありません。
当社は、このプログラムではチャットボットやAIを使用しません。資料とこのプログラムでどの資料を提供するかについての決定は、若者には何が有効か、さまざまな困難を支えるために何が必要かに関する当社の専門知識に基づいています。AIとチャットボットに関しては、依然として未知の部分が多く、若者に対しては、気をつけてアプローチする必要があります。AIが普及する一方、若者たちの一部は(特に子供たちは)、自分達の話している相手が実際は人間では無い事を理解できない場合があります。
記事原文はこちら(『mobihealthnews』2024年5月9日掲載)
※記事公開から日数が経過した原文へのリンクは、正常に遷移しない場合があります。ご了承ください。
============================================
『mHealth Watch』の視点!
ご存知のように、ヘルスケア領域においてもAI活用は目覚ましく、特に手間やコストがかかるコミュニケーションへの活用ができることが望ましいと思う声は多く聞かれます。
多くのオンラインでのコミュニケーションによるサービスの場合、ユーザーの問いかけに答えているだけではなく、プログラム設計がされたものが提供され、ゴールに導くようなコミュニケーションが取られています。
プログラムである以上、コミュニケーションはAIに任せられれば、自動化でき、人件費を大幅に削減できることになります。
ただ、ある程度目的が明確で、その目的に向かって取り組みたいと前向きな人に対してなら、プログラム+AIでのコミュニケーションでも成立しますが、ケアとなると少し変わってきます。
ケアにおける対象者の多くは、今より良くなりたい、痛み(だるさやモヤモヤなど含め)が緩和すればよい。くらいの意識なので、達成させたい目的(例えば、フルマラソンで完走できるようになる等)とまでは言えず、ちょっとしたことで挫折、中断しやすいのが実態です。
そのような対象者に、提供者にとって理想の展開を押し付けても、離脱率を高めてしまいやすくなります。
今回インタビューを受けたSonja March氏は、
「Momentumのようなオンラインプログラムを配信するさまざまな方法をテストしています。Momentumに加えて、電話やビデオ会議、メッセージサポートに至るまで、支援が提供できるケアモデルに注目しています。家族にさまざまなオプションを提供できることが必要だと考えています。ひとつのモデルが全てに適用できるわけでは無いのです」
と述べていました。
特に離脱しやすい導入時と、何かあったときの対応、ここは丁寧に行うことで経験を積み、このような場面での適切なAI活用を見極めることが大切になると思います。
『mHeath Watch』編集 渡辺 武友
株式会社スポルツにて健康ビジネスにおけるマーケティングに関するコンサルティング、一般社団法人 社会的健康戦略研究所の理事として、ウェルビーイングの社会実装方法の研究を行う。またウェアラブル機器、健康ビジネスモデルに関する健康メディアでの発表や、ヘルスケアITなどで講演を行う。
Comments are closed.