『mHealth Watch』では、ここ最近で公開されたニュースから「注目ニュース」をピックアップし、独自の視点で解説していきます。
===========================================
“無害な刺激で神経性の痛みを解消するウェアラブルデバイス『Nerivio』”
偏頭痛を含む神経性疼痛疾患を、薬を投与することなく治療できるウェアラブルデバイス『Nerivio』を提供するTheranica社(本社:イスラエル・ネタニア)。このデバイスは腕に装着し、「条件付き疼痛調節」というメカニズムを用いて無害な刺激を与えることで、脳幹の特定の神経伝達物質の放出を増加させ、本来の痛みの遮断を図る。すでに、米国やEUでは正式な治療法として認められている。日本を含むグローバル展開を目指す同社の共同創業者でCEOのAlon Ironi氏に、創業の経緯や将来展望を聞いた。
経緯と取組テーマ
「2013年ごろになると、私は本来の夢に戻る時が来たと感じ、何人かのパートナーと共に、私たちが持つ電子工学、通信技術、デジタル信号処理などの知識と経験を医療機器分野でどのように活用できるかを模索しました。そのなかで、世界有数の神経科医であり「痛み」の専門家であるTechnionのDavid Yarnitsky教授との出会いがありました」
「そこで、人体の神経系が大きな電気回路であると考えると、私たちの知識や技術がこの分野に役立つのではないかと考えたのです。Yarnitsky教授から聞いた課題の中に偏頭痛がありました。実は、私の娘も以前から偏頭痛に悩まされ、さまざまな薬を試していましたが、効果が見られなかったり、副作用がひどかったりしました。この課題に取り組むことで、もしかすると自分の娘を助けることができるかもしれないと考え、Theranicaを創業したのです」
「娘の偏頭痛は、残念ながら慢性の病気ですが、彼女は私たちのデバイスを約5年以上使用しており、その間に3つの大きな変化が見られるようになりました。まず、偏頭痛の“発生頻度”が減少しました。次に、発生する偏頭痛の“強度”が軽減され、そして最も大きな変化は、ほとんど薬を使用せずにこのデバイスだけで症状を管理できるようになったことです。時々、鎮痛剤を使用することはありますが、ほとんどの場合、このデバイスのみを使用しています」
「彼女の状態は大幅に改善され、勉強や仕事ができるようになり、最近は医学部を卒業しました。以前は普通の生活を送ることが難しかったですが、この解決策を導入してからは、日常生活においても大きな改善が見られ、これにより非常に満足しています」
ウェアラブルデバイス『Nerivio』
「私たちの神経系には痛みを抑制するさまざまなメカニズムが存在し、脳は身体を痛みから守る能力を持っています。痛みは一種の警報であり、通常は何らかの危険や問題を示しているため、基本的には私たちが危険から避けるのを助ける良いものです。しかし、時には神経系や体が痛みの有無を適切に判断できなくなることがあります。痛みを抑制するメカニズムの1つに“CPM(Conditioned Pain Modulation)”があり、このメカニズムは脳幹に存在し、危険でないと判断された刺激に関連する痛みを特定し、適切な神経伝達物質を放出することで痛みを止めることができます」
「研究で、この痛みを抑制するメカニズムが機能しない人がいることが明らかになりました。特に偏頭痛や線維筋痛症などの神経学的疾患を持つ人々において、このCPMメカニズムの機能不全と高い相関が見られます」
「私たちのデバイスは、上腕に取り付けて痛みのメッセージを伝達する神経線維を特定して刺激する電気信号を提供するよう設計されています。これらのメッセージが脳幹に届いた際にCPMメカニズムを活性化させることができます。この結果、主にセロトニンとノルアドレナリンの放出が増加し、偏頭痛の痛みの伝達を止めることができます。私たちはこの基本的な作用原理を応用したのです」
「治療の所要時間は45分ですが、個々の患者によっては、治療開始後わずか20分で症状の軽減や偏頭痛の発作の完全な抑制が報告されています。30分後に症状の軽減を感じる人もいますが、より安全を期して、より多くの患者に対応するために、治療時間は45分と設定されています。これは、急性治療だけでなく予防治療にも当てはまります」
記事原文はこちら(『TECHBLITZ』2024年5月31日掲載)
※記事公開から日数が経過した原文へのリンクは、正常に遷移しない場合があります。ご了承ください。
============================================
『mHealth Watch』の視点!
上記はロングインタビューからの抜粋です。評価や市場展開などについても述べていますので、ぜひ記事原文もご確認ください。
デジタルヘルスは予防から治療まで、幅広い領域で活用されています。今回紹介した『Nerivio』のように、新たなテクノロジーの開発により健康課題を解決に導くものもありますが、けっして新しいテクノロジーは使っていないが、健康課題解決に貢献するものもあります。
新しいテクノロジーだからと、どれもが市場導入が進み、売上を伸ばしているとは言えません。目新しいテクノロジーはないにも関わらず、5年、10年と成長しているヘルスケアビジネスもあります。
その違いは何か?
私は相性の良い領域による違いではないかと考えています。『Nerivio』のような新たなテクノロジーでのアプローチは、予防よりも治療に向いていると思います。
例えば片頭痛や腹痛など、症状によっては痛みを伴い、普段の生活にも支障をきたすことがあります。このような症状であれば「すぐにでも痛みを取り除きたい」と考えますので、治療を求めるのではないでしょうか?
今痛いのに、今後の再発を防ぐための行動を考える人は、そうそういないと思います。治療であれば、より効果が期待できるなら新しいテクノロジーも選択しやすいでしょう。
対して予防は、自発的なケア行動を求められることが多くなります。自発的なケア行動となると、自身が率先して継続的に取り組むことが求められます。
この時点の課題は、「ケア行動が続かない」となりますので、新しいテクノロジーだから続くとは言えず、過去からある手法であっても行動継続に効果があることが求められます。
今回紹介した『Nerivio』のような新たなテクノロジーは今後も大歓迎です。ただし、自身のビジネスがどの領域にアプローチするものなのかを考え、本当に解決すべき課題を見極めた上で、テクノロジーを選んでいく必要があります。
『mHeath Watch』編集 渡辺 武友
株式会社スポルツにて健康ビジネスにおけるマーケティングに関するコンサルティング、一般社団法人 社会的健康戦略研究所の理事として、ウェルビーイングの社会実装方法の研究を行う。またウェアラブル機器、健康ビジネスモデルに関する健康メディアでの発表や、ヘルスケアITなどで講演を行う。
Comments are closed.