『mHealth Watch』では、ここ最近で公開されたニュースから「注目ニュース」をピックアップし、独自の視点で解説していきます。
今回注目したニュースはこちら!
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“シンガポール工科デザイン大学、多言語対応の認知症アプリが高齢者の認知能力を向上”
シンガポール工科デザイン大学(以下SUTD)のアプリ開発チームが、世界初の可能性がある認知症予防多言語アプリ『Ami』(精神の活性化促進を表すAdvancing Mental Invigorationの頭文字)を開発した。
健常な認知機能の高齢者と、認知症の初期症状を示す高齢者の両方を対象とするこの治療介入ツールは、6つの異なる言語および方言に対応する3つのタッチスクリーン式ゲームを備えている。それぞれのゲームは単一言語モードまたは二言語モードで提示され、ゲーム中はアバターがユーザーに説明や指示、支援を提供する。
シンガポールでは60歳以上の約10人に1人が認知症である。人口に占める高齢者の割合が約21%と、超高齢社会に少しずつ近づいているため、今後も認知症患者が増加すると予想されている。
SUTDの開発チームは、2つまたは多数の言語を常用することが、高齢者の認知能力にプラスの影響を与える可能性があるという科学的仮説を検証するため『Ami』を開発した。
SUTDで人文科学・芸術・社会科学部門の責任者代理を務めるYow Wei Quin准教授はある研究を引用し、2つの言語で提示される認知ゲームをプレイする高齢者は、単一言語のゲームをプレイする高齢者や全くゲームをしない高齢者に比べ、認知能力と言語記憶力を大幅に向上させることができる可能性があると述べた。また、同じ研究で、認知的思考に障害がある高齢者がこのようなゲームをプレイしたところ、6ヵ月後に言語学習能力の改善が見られたという。
Yow准教授のチームは2年前に、St Andrew’s Senior CareおよびYong-En Care Centerと協力して、『Ami』のテストベッド開発とパイロットテストを開始した。研究チームは、このアプリによって認知的な結果だけでなく、技術的な認識能力や受容性においても目覚ましい改善を実現したと主張している。パイロットテストに携わった介護者、セラピスト、福祉団体も、このアプリが顧客にとって有益であり、介護者の負担を軽減する可能性があることを認めている。
SUTDのチームは現在、より多くの人々にこのアプリを紹介し、最終的には商業化するため、さらなる資金と投資を獲得しようとしている。また、AI技術を利用してアプリの機能やゲームの品揃えを拡張することも目指している。
記事原文はこちら(『mobihealthnews』2023年10月11日掲載)
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『mHealth Watch』の視点!
日本だけが超高齢社会に突入と思ってしまうことがありますが、先進国の多くが高齢社会を迎えることとなり、その対応策が次々と打ち出されてきています。
この領域では日本が一歩も二歩もリードしていると思いがちですが、あっという間に抜かれる可能性があります。国内だけでなく、常に他国の動向も知っておくことが大切でしょう。
今回発表された『Ami』は、ゲームで多言語を使うことで、脳活性を図るというものです。この考え自体はすでに認知されていて、国内でも海外旅行する予定のない高齢者が、認知症予防のために多国語を学んでいるケースもあり、かなり効果を出しています。
認知症予防はどうしても「脳トレ」を代表的存在に思ってしまいますが、認知症予防の現場ではもっと多くのやり方が取り組まれています。
今回の『Ami』もそうですが、どのやり方にしろ、どうやって高齢者に継続的に予防行動をしてもらうか?が重要になります。
「脳トレ」がどんなに話題になっても、そのブームが何年も続いているわけではありません。どんなやり方でも、1つのやり方に押し込めてしまうには限度があります。
高齢者に限らないことですが、同じことだけを繰り返していれば、多くの人は飽きてしまうものです。でも、やってみよう、やってみたら楽しかった。と言う気持ちは持っているわけですから、そのタイミングで次にするべきことがあるのではないでしょうか?
情報をうまく連携させられる今の時代だからこそ、高齢者対応、認知症予防を行う題材は揃ってきています。今こそ、本当に予防行動が継続するやり方を築くときだと考えます。
『mHeath Watch』編集 渡辺 武友
株式会社スポルツにて健康ビジネスにおけるマーケティングに関するコンサルティング、一般社団法人 社会的健康戦略研究所の理事として、ウェルビーイングの社会実装方法の研究を行う。またウェアラブル機器、健康ビジネスモデルに関する健康メディアでの発表や、ヘルスケアITなどで講演を行う。
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