『mHealth Watch』では、ここ最近で公開されたニュースから「注目ニュース」をピックアップし、独自の視点で解説していきます。
今回注目したニュースはこちら!
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“体内リズムは「光」にコントロールされている?現代人の生活習慣を整える「光環境ヘルスケア」”
生活シーンごとの光環境が、睡眠や健康状態に意外な影響を与えていることはご存じですか? 現代の照明テクノロジーを上手に活用して、今すぐ快適化できる光環境のヘルスケアをご紹介します。
日本人の暮らしに寄り添う照明テクノロジー
日本人は、先進国の中ではとりわけ蛍光灯好き民族のようです。かつて日本の住宅照明は蛍光灯が約80%を占めていました。日本で初めて電球が使われたのは明治11年(1878)、工部大学校(現・東京大学工学部)で開催された晩餐会でした。さらに、蛍光灯が使われ出したのは71年後の昭和15年(1949)で、法隆寺金堂壁画のライトアップに使用されました。
電球は、狭い範囲をスポット的に照らす集光型の光源ですが、蛍光灯は空間全体に広がる拡散型の光源です。北欧など欧米諸国では暖かみのあるオレンジ色の光を放つ電球が住宅照明の主流ですが、日本では戦後、棒状や環状の蛍光灯がまたたくまに普及していきました。蛍光灯のつくる煌々とした明るさは、日本人は豊かさや文化的生活を感じさせたのかもしれません。
さらに2000年代に入ると、照明に新たなイノベーションがもたらされました。日本人の研究者によって青色発光ダイオード(青色LED)が発明されたことで、発光効率が高く、長寿命で低消費電力のLED電球が登場したのです。LEDは電力消費量を大幅に削減させるテクノロジーとして世界中の注目を集めました。2009年に閣議決定された日本のエネルギー基本計画では、2030年までにLED普及率100%を目指す方針が打ち出され、2017年の調査では照明にLEDを使っている世帯が6割を占めるまでになっています。
私たちの暮らしを明るく照らしてくれる照明ですが、最近では、その弊害も指摘されています。環境省では、不適切な照明による睡眠トラブルや、農作や天体観測などへの悪影響を「光害(ひかりがい)」と定義して改善を促すガイドラインを作成しています。また、スマートフォンやパソコンなどの使いすぎから生じるブルーライトの影響を指摘する研究もあります。
たとえば、ブルーライトを発するスマホと、ブルーライトカットのスマホで夜7時半から10時までゲームをしたところ、ブルーライトを発するスマホを使った人はその後、眠気が生じにくくなり、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌量が上がるまで時間がかかりました。ブルーライトは太陽光にも含まれ、それ自体は有害な光線ではありません。ただ、本来暗くなるべき夜間にブルーライトを長時間間近で直視しつづけたことで、ホルモン分泌に影響を及ぼす変化が起こったと考えられます。
テクノロジーが進化しても、人間の体は変わらない?
人間の心と体が、こんなにも敏感に光の影響を受けるのは、太古の昔から“日の出とともに起き、日が沈むと寝る”というように、1日のサイクルを太陽光によってコントロールされていたためだと考えられます。
寝ている間は、脳内では「メラトニン」という眠りを誘導する睡眠ホルモンが分泌されています。朝になってまぶたに光を感じると、メラトニン分泌がストップして、眠りから目覚めます。そこから14〜16時間後にメラトニンの分泌が再開するように脳の視床下部にある体内時計がリセットされるのです。たとえば、朝6時に起きたとしたら、14〜16時間後の夜8〜10時頃にはメラトニンの分泌がふたたび始まり、眠気が訪れます。こうした体内時計の働きをサーカディアンリズムといいます。
ところが、夜中に強い光を浴びてしまうと、就寝に向けて準備が始まっていたメラトニンの分泌が止まってしまいます。それによって、夜になっても眠くならない、寝つきが悪くなるなどの睡眠トラブルにつながりやすくなります。
メラトニンは睡眠サイクルだけでなく、血圧や体温、呼吸、免疫など全身の生理機能とも関係しています。照明に関する研究では、夜間の照明が夜間勤務者のがんや肥満などの健康リスクを高める可能性が報告されています。
人類が誕生したのは、およそ500万年前といわれますが、電気の力で煌々とした明るい夜を享受できるようになってから、わずか100年程度しか経っていません。世の中の風景がガラリと変わっても、私たちの体は太古の昔に刻まれたサーカディアンリズムに忠実にしたがっているのです。
記事原文はこちら(株式会社フィリップス・ジャパン 2022年6月7日掲載)
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『mHealth Watch』の視点!
今回注目するのは、体内時計と光に関連した「光環境ヘルスケア」というアプローチです。
今回のフィリップス社が発信しているこのニュースの中では「光環境のケアは、でも簡単にできるヘルスケアです」と言っています。
ヘルスケアというと食事、運動、休息(睡眠)が代表的なアプローチですが、この3つの中でも、特に休息の「睡眠」については、光環境が大きく関係してくる領域です。
しかし、「睡眠」については、光環境だけではなく複雑な要素がみ合っていて、一つのソリューションだけでは、改善が難しい領域だと言えます。
例えば、睡眠の改善には、今回の記事にもある「光」や「照明」も影響しますし、温度なども寝室の空調や環境も関係が深く、また当然寝具も関係していきます。
さらに、日中の活動量はもちろん飲酒、食事も関係してきます。
しかし、「体内リズム」「体内時計」こそが、人間の睡眠に大きく関係しており、この「体内リズム」「体内時計」を正しく理解した上で、睡眠改善に向けた様々なアプローチを取り入れていくことこそが必要なのではないかと、今回のフィリップス社の記事を見てあらためて感じました。
ヘルスケアでは、様々な課題に対して、いろいろなアプローチ、ソリューションが提供されています。
しかし、それらのアプローチ、ソリューションは、今回の「体内リズム」「体内時計」のような、身体のもともとの機能、働きを正しく理解した上での対処、改善というものも少なくありません。
このように、アプローチ、ソリューションを表面的に捉えて取り入れるのではなく、身体のもともとの機能、働きなどを理解した上で、アプローチ、ソリューションを取り入れていくのでは、取り組みそのものとの向き合い方も変わってきます。
やはり、情報を正しく理解し、使いこなせてこその「ヘルスリテラシー」です。
ヘルスケアサービスを提供する際には、機能やソリューションを提供するだけではなく、使えこなせるための「ヘルスリテラシー」もセットで伝えいく、提供していくことが、納得した取り組みにしていく上では必要なのだと思います。
『mHealth Watch』編集委員 里見 将史
株式会社スポルツのディレクターとして、主に健康系ウェブサイト、コンテンツなどの企画・制作・運営を担当。また『Health Biz Watch Academy』では、「mHealth」のセミナー講師として解説。(一財)生涯学習開発財団認定コーチ。
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