『mHealth Watch』では、ここ最近で公開されたニュースから「注目ニュース」をピックアップし、独自の視点で解説していきます。
今回注目したニュースはこちら!
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“フェムテックもステルス化、行動変容不要の最新のヘルスケア事例3選”
ただのテーブルだと思ったら実はテーブルの形をした冷蔵庫ーー。一見すると家電には見えない「ステルス家電」が昨年話題を集めたが、同様にヘルスケア領域でも、本人のヘルスケア意識の強化やヘルスケア行動の決断を必要とせずに「気づいたら健康行動をしていた」という“ヘルスケアのステルス化”が進んでいる。女性たちの健康意識や行動をあの手この手で変えるのが難しいなら、製品・サービスをステルス化するのも一案。
行動変容の限界、なぜ6割の女性が健康行動を起こさない?
ヘルスケア事業に関わる企業なら、ターゲット女性の行動変容を促進する難しさを誰もが痛感しているはず。自社製品を知ってもらい、他社と比較検討され、選んでもらうーー。これだけでも多大なるエネルギーとコストを必要とするのに、ヘルスケア製品・サービスにおいては、消費者のヘルスリテラシーや行動変容促進までをも考慮する必要があるから大変だ。
そんなヘルスケア業界のマーケティングの鉄則と言えば、関心層に絞り込んだアプローチや、あるいは、関心層と無関心層でアプローチを変えるというもの。いわゆる「行動変容ステージモデル」に則った考え方で、健康への関心・行動レベルによってマーケティング施策を変える。業界ではよく知られているが、複雑な人間の心理を操るのは容易ではなく、実際は、無関心層は言うまでもなく、関心層であっても健康行動を継続させるのは難しい。厚労省の調査によると、6割もの女性が健康行動に取り組んでいないことがわかっている。これだけ健康情報・製品・サービスが世の中に溢れ健康を意識する人が増えているとは言え、結局のところ、健康行動者率は半分にも満たないのが現実だ。なぜなのか?各主要データを分析したところ、考えられる理由は次の8つ。
1、仕事・家事・育児で忙しいから
2、自分も身近な人も健康だから危機意識がない
3、お金がないから
4、環境が整っていないから
5、楽しくないから
6、ヘルスリテラシーが低いから
7、考えるのも 、決断も面倒だから
8、性格
ただしこれらは、「健康行動を“自らの意思”で起こさない理由」というよりは、「健康行動を起こしたくても起こせない理由」「健康行動を起こす気になれない理由」「健康行動を妨げているもの」という捉え方をする方が正確かもしれない。時間や経済面での制約や、周囲の環境などが背景にあるからだ。
行動変容促進に変わる手法、ヘルスケアのステルス化
各社が見込み客や顧客の行動変容促進に苦戦するなかで近年注目を集めているのが、本人のヘルスケア意識の強化やヘルスケア行動の決断を必要としないヘルスケア。健康関心レベルやヘルスリテラシーの高低に関係なく、日々の生活の中で意識することなく自然とヘルスケアができるものが出てきた。ユーザーのベネフィットは何と言っても、健康行動を起こす決断やモチベーションの維持といったストレスから解放されること。子どもや夫・親など、家族の健康管理を担うことが多い女性にとっても心強い。
ステルス化されたヘルスケア、事例3選
ヘルスケア領域でのステルス化の代表格は、スマートホーム。例えばパナソニックや芙蓉ディベロップメント(福岡)などが、「住んでいるだけで健康管理・維持・増進」ができる住宅の開発に乗り出している。仕事をしながらリフレッシュしたり健康習慣が身に付く健康経営オフィスも同様だ。最近は女性の健康などフェムテック領域でのステルス化も話題だ。
自宅トイレでホルモンを測定、排卵・生理周期の特定にも(Withings)
健康機器メーカーの仏Withingsが今年のCES2023(世界最大規模のテクノロジーの展示会)で発表したのは、自宅のトイレで尿検査できるIoT機器「U-Scan(ユースキャン)」。コンパクトのようなデバイスを便器内に取り付けるだけ。日々の尿からバイタルマーカーを検出し、栄養状態や水分補給などを分析。結果は専用アプリに送信、健康増進に向けたアドバイスも提案する。黄体形成ホルモンの測定も可能で、生理周期や排卵期を特定できる。生理周期の段階に応じた健康アクションも提案。
通常は、自分の排卵日や生理サイクルを把握するには基礎体温を毎朝測る必要があるが、これがあれば毎朝の面倒から解放される。計測をうっかり忘れてしまうこともない。同社は「女性の精神的負担を軽減するのに役立つ」と語っている。
経血量を測定できる吸水ショーツ(ベアジャパン×ミツフジ)
吸収型サニタリーショーツブランドを展開するベアジャパン(東京・渋谷)と、ウェアラブルソリューションを開発するミツフジ(京都・相楽)が開発を進めているのは、穿くだけで経血量を測定できるショーツ。電気を通す糸をショーツに組み込み、電気抵抗値から経血量を測定し、専用アプリに自動記録するというもの。毎月測定することで過少月経・過多月経などの変化に気づける。2社は「婦人科系疾患の早期予測・早期発見・適切な治療へつなげたい」とのこと。
住宅内で健康データを自動収集(凸版印刷)
住宅内に溶け込ませたテクノロジーで健康管理の習慣化をサポートする、「cheercle(チアクル)」。例えば手洗いや歯磨き時に洗面台に立つだけで、鏡が肌温度などを自動で取得。同時に、床に埋め込まれた体組成計は体重・体脂肪率・BMIを自動測定する。取得されたデータはタッチパネル式のミラーに表示され、情報はスマホでも確認可能。生活動線上の自然な動作の中でデータが収集されていくため、健康行動を自らの意思で起こす必要がなく面倒や負担がない。健康習慣が途切れることもないので、継続的な健康管理が可能だ。
記事原文はこちら(ウーマンズラボ 2023年7月26日掲載)
※記事公開から日数が経過した原文へのリンクは、正常に遷移しない場合があります。ご了承ください。
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『mHealth Watch』の視点!
今回注目するのは、行動変容不要の最新のヘルスケアの3つの事例を紹介する記事ですが、特に私が注目したいのは、他の領域の一般的な商材、サービスのアプローチと異なり、ヘルスケアの領域では、消費者のヘルスリテラシーや行動変容促進までをも考慮する必要がある点についてです。
ヘルスケアの領域では、行動変容ステージごとにアプローチを変えることはマーケティングの鉄則なのですが、多くのヘルスケアのサービスでは、より多くの人を取り込みたいということを狙いがちで、この行動変容ステージごとのアプローチが薄れて見えることが多いのも事実です。
また、行動変容ステージによって、アプローチはもちろん利用者視点での課題が異なってきます。
例えば、無関心層の人に向けては、まずは興味、関心を持ってもらうことことが必要になってきます。
関心層、準備期の人に向けては、一歩を踏み出してもらう、手にとってもらうことがポイントになってきますし、その後の継続も必要になってきます。
さらに、実行期、維持期に向けては、継続はもちろん維持、習慣化といった一時的な成果ではなく本当の意味での成果へアプローチ、サポートが必要になってきます。
このように、ステージによってアプローチが変化していくのですが、大きく分けると「動機付け」と「継続」になってきて、この動機付けから継続、そして習慣化といったプロセスもステージの変化に対応していく上では重要な要素になってくるのです。
今回の記事の中で、6割もの女性が健康行動を起こしていない理由として、以下の8つを紹介しています。
1、仕事・家事・育児で忙しいから
2、自分も身近な人も健康だから危機意識がない
3、お金がないから
4、環境が整っていないから
5、楽しくないから
6、ヘルスリテラシーが低いから
7、考えるのも 、決断も面倒だから
8、性格
行動変容ステージが低い人達の動機付けに有効な手段は一つではなく、上記のような様々な理由から、アプローチも多岐に渡ってくるので、ヘルスケア領域のマーケティングはさらに難しいのです。
今回の記事の中で紹介している3つの事例は、ヘルスケア意識の強化やヘルスケア行動の決断を必要とせずに「気づいたら健康行動をしていた」というもので、行動経済学の「ナッジ」のアプローチとも言えそうな気がしています。
この「ナッジ」のアプローチとは、軽くつつく、そっと押すというイメージで「ある行動をそっと促す」という意味合いになります。
しかし、この「ナッジ」のアプローチも、そもそも特定の商品を購入しないと体験できないということでは、上記8つの健康行動を起こしていない理由の中の「お金がないから」「環境が整っていないから」などといった感じで、ヘルスケア意識の強化やヘルスケア行動の決断を必要とせずに「気づいたら健康行動をしていた」といった体験ができないことになってしまうのです。
「卵が先か、ニワトリが先か」ということになりがちですが、基本的にはヘルスケア意識の強化やヘルスケア行動の決断を必要とせずに「気づいたら健康行動をしていた」という商品や環境が一般的になってくる、生活の一部になってくれば、いま以上に「気づいたら健康行動をしていた」という状況を作り出すことが可能になるのではと、今回の記事を見て、あらためて感じました。
『mHealth Watch』編集委員 里見 将史
株式会社スポルツのディレクターとして、主に健康系ウェブサイト、コンテンツなどの企画・制作・運営を担当。また『Health Biz Watch Academy』では、「mHealth」のセミナー講師として解説。(一財)生涯学習開発財団認定コーチ。
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