「目に見える常駐する場を活用して、健康経営を次のステップへ」
株式会社富士通ゼネラル 健康経営推進室 室長 佐藤光弘氏
株式会社富士通ゼネラル 健康経営推進室 玉山美紀子氏
富士通ゼネラル社が健康経営をスタートして間もない2017年5月にインタビューを行いました。
それから2年が経ち、ついに本社に“健康デザインセンター”がオープンしたと佐藤氏から連絡をいただいたので、早速見学がてら現在の取り組みを伺ってきました。どのように進化を遂げてきたのか、ご紹介していきます。(取材日:8月29日/インタビュアー:渡辺 武友/撮影:脇本 和洋)
今までの社風、文化を考慮して丁寧な取り組みを心がける
Q:以前お話しを伺ってから2年しか経っていませんが、健康経営の一環で施設“健康デザインセンター”を本社に作られました。ここまでの規模になった経緯を教えてください。
佐藤光弘氏(以下:佐藤):一番は社長が健康経営をやりたいという思いが強いですね。健康経営により、世の中が動いているという話しを伝えると社長自身もすごく期待してくれます。「健康経営という切り口で社員の人間力が向上できるのであればやろうよ!」と言ってもらいました。
健康経営も2年前にスタートして地道に取り組んできました。
ベースは産業医の先生をはじめ、産業保健のスタッフに新たに参加してもらい、産業保健を軸に活動してきたことで今があると思っています。
Q:以前お伺いしたとき、専門職がちゃんと配置されていないという問題があり、そこから手を入れるとのことでした。そこからはじめることで、みんなに納得感があったのですか?
佐藤:製造業なので就業時間中にいくつかの健康イベント、面談、人事面接などすることはありますが、社員は個々に健康に関する相談をするなど許されないと思い込んできました。
健康経営をはじめてからは就業時間中に全員に個別面談、健康診断後のフォローを始めました。全員面談することで会社の状況を産業医もわかり、社員も安全安心を得ることになります。少しずつですが、社員が“今までと違う”と、社長が言っていた健康経営が本当に導入されたと感じるようになってきたようです。
Q:保健スタッフによる面談がベースとなることで、他の健康経営活動にも影響しているとのことですか?
佐藤:そうですね。社長が健康経営宣言したからと、いきなりは変われません。企業には培ってきた文化がありますので。
2年かけてようやく素地ができてきたという段階です。
玉山に言わせれば「まったくできていない!」となるのでしょうが(笑)
玉山美紀子氏(以下:玉山):まったくやっていないとは言っていないですよ(笑)
取り上げるトピックスの優先順位が考え方として間違っているのでは?と感じました。今まで専門職がいなかったので仕方のないことなのですが。
健康経営なので経営に対してどうアプローチするのか?健康の経営投資としてどれくらい投資効果が出たのか?もう3年経ったので示さねばならない段階にきています。
今までは健康に関連することだけではないですが、毎月同じことのルーティンを繰り返すことが当たり前になっていました。
しかし、本来的には新たに得た情報を共有したり提言していくことで進化していく必要があります。
例えば、今年の夏はすごく湿度が高くて暑かったので、例年より体調を崩す社員が多くいました。
このような事態になったら、職場での原因を究明して対策を考えないとならないのですが、今年は大変だと流してしまい、対策を検討するという発想が持てない体質だったのです。
佐藤:これは富士通ゼネラルだけのことではないです。ほとんどの会社が形式的になってしまいやすいです。以前いたある工場でも同じようなことが起きました。問題と感じてはいるが、そもそも議論していいのか?と思ってしまうのです(苦笑)
今は少しずつですが、本当の意味での安全衛生委員会ができつつあると思っています。
玉山:健康経営推進室ができたからと、今まで培った関係を無視して言っていいことはないです。
人事部門に言うと角がたつので、まずは医療職の方にアプローチし、医療職の方から人事担当者とコミュニケーションを取るようにしてもらうなどの配慮は必要ですね。“世話焼きおばさん”的な役割も必要なんです(笑)
佐藤は新しいことが好きなのは社長と全く一緒でして、勢いで発言してしまうこともあり、その発言だけ聞いた人から「何でこれをやるわけ?」と訝しんだり、警戒されたりしてしまいます(苦笑)
そのようなことがないよう、ケアしていくことが大切です。
Q:ケアしながらやってきている中で、今一番足りていないと思うことは何ですか?
玉山:健康経営をはじめて3年目なので、社員に向けて現状の成果を伝えていきたいです。
社員の皆さんが頑張って作り上げた利益を使っていますので、きちっと伝えていかないと、景気が悪くなってきたときに反感を買う部署になりかねないです。
富士通ゼネラルは8〜9割が開発職で理系出身です。私の想像を超える質問をされる方々が多いです。質問に対する答え方も注意してやっていくとリピーターが増えてきたり、口コミで来てくれる方が増えたりしてきました。
Q:一つ一つ納得感が出るよう、丁寧に積み重ねてきたということですね!?玉山さんが来たことで形になってきたと。
佐藤:そうです。去年までは唐突にやってきましたから(笑)
玉山:例えばサッカーを観に行くイベントはコミュニケーションを活発にすることが目的なのですが、何でやっているのか趣旨文がなかったんです。いきなり皆でサッカー観に行くぞ。と言われても唐突ですよね(苦笑)
Q:そこまで丁寧にやっていかないとならないものですか?
佐藤:フジクラ社の浅野さんがよく講演で健康経営の課題の1つとして「人事の壁」の話しをします。
例えば、書類の受け取りを人事部に行くよう伝えると「人事はちょっと行きにくいので…」と言われてしまうことがあります。
これはどんな会社も同じようなところがあります。人事は監視役みたいな組織に見えてしまうのでしょうね。
お世話係のはずがルール指導係みたいになってしまっているところがあります。
玉山:人事が音頭を取っている施策ではなく、健康経営なので、健康経営の範疇から逸脱しないように、こちらでヒアリングしたり集計を取ったりして、人事に情報提供して、連携をしてもらうなどして、少しずつ会社として取り組みができたらと思っています。
佐藤:健康経営の基本は性善説でいきたいので、疾患を持っている人だけでなく社員全体にどれだけ投資していくかの考え方から始めないといけないのです。
Q:この2年間、何をされてきたかがよくわかりました。
健康経営というのは健保からではなくて会社の経営サイドから、経営として何をしたいのか、社員にどうあって欲しいのか。それをやってもらうためにはここに何千人もいる人それぞれの価値観で理解して取り組んでいくためには、何か健康に役立つことをわかりやすいイベントでやればいいんだ、という単純なことを言っているのではなくて、今の部門とか年代とかに合わせて色々落とし込んでやっていく必要がありますね!?
玉山:おっしゃる通りです。全体のストーリーのステップを今年度どういう風に踏んでいくのかが重要です。
やはりPDCAをしっかりと回していくことで納得感も得てもらえると思います。
今まではコーポレート部門が社員にアンケートの結果を一回も返していなかったので、我々から伝えると驚かれることがあります。
アンケート結果を載せるだけでなく、この結果を踏まえて次にこんなイベントをやりますと書いてしまえば繋がることがわかってきました。
ここ最近は、2週間に1度とか毎週とかのペースで健保や組合と共催して案内を出しています。
その多くが“健康”に関することで、「最初の頃はなんでこんなにいっぱいなの?」と思われていましたが、今は右向いても左向いても“健康”になってきているんですよ。
少しずつですが、そういう会社になってきています。
Q:常にあれば当たり前になっていくということですよね?
佐藤:そうですね。筑波大の久野先生が、地域を活性化するためにはポスターとか旗とか全部貼って右向いても左向いても健康みたいになると自然とそうなるとおっしゃってました。まさしく一緒で、やはりそういうのが当たり前になってくると自然に入っていけますよね。
何やっても絶対効果があると思うのです。会社が社員のために動いていることで、決してお金をかけているかではなく、社員を大事にしているということはイベントとか何か起こさないと伝わらないと思います。
ラインケアがだいぶ手厚くなってきたので、次はセルフケアを就業時間内にできるような風土とか文化醸成をもう少し高めたいのが下期の目標になっています。
健康経営に対する社長の思い
Q:前にお話しを伺ったときに、社長が「社員の健康を一番に考えなさい」と。「社員とその家族の健康より大事なものはない」と佐藤さんにおっしゃったと伺いました。
この2年間、色々なことが起きたことによって社長に変化があったなど、佐藤さんとしては、どう感じられますか?
佐藤:社長には3か月に1回報告をしています。
以前は「佐藤くんがやるんだったらいいんじゃないか!?」のように聞くだけが多かったのですが、少しずつ社長の思いを伺ったり、要望をもらうことが増えてきました。
「今、何でそんなことを言うのだろう?」と思うことはありますが、興味があるから反応してくださるので、以前より面白いですね。
健康経営のセミナーがあると社長から「佐藤くん一緒に行こうか?」と言ってくださり、3時間一緒に話しを聞いて、帰りに酒飲みに行って参考になることはどんなことだったかなど話しをしました。
産業医の河野慶三先生にそのことを話したら、「そんなことを自分から言いだして、社員に伝えたいことを率先して言ってくる社長などいない」と言われ、社員にも共有すべき、と言われました。
社長以外の役員や人事部長なども、もっと社員を活性化したいとの思いが強くなっていますね。
玉山:去年初めてストレスチェックの評価を佐藤と一緒に役員全員に報告しに行きました。
30分程度でアポを取ったのですが、思った以上に意見を言ってくださり、1時間くらいお話しさせていただきました。
社員それぞれの健康を見つける場“健康デザインセンター”
Q:新しく完成した“健康デザインセンター”とは一体どんなところでしょうか?
佐藤:“健康デザインセンター”とは、健康を管理するのではなく、ここで健康に気づいて自分なりに健康をデザインして欲しいという場です。 施設の管理はスタッフで分担して行っていますが、社員が自由に使える場として作りました。
ゾーンが4つに分かれています。
入ってすぐがDesign Working Zoneで、ディスカッションやイベント開催、ワーキングスペースとなります。
奥がActive Zone。雲梯(うんてい)、エアロバイク、卓球台があり、体操できるスペースでもあります。体重と血圧の測定器もあります。入って右手がRelax Zoneです。バランスボールでストレッチをしたり、ハイバックチェアで仮眠(最大10分)を取ることもできます。
ガラス張りの中はHealth Core Zoneです。閉鎖された空間が当たり前だった健康管理センターを開放的で誰でも気軽に相談できるようなスペースとしました。
Q:いつオープンしたのですか?
玉山:7月上旬にまず健康管理センターのスタッフが引っ越してきました。その後、社内周知を2回ほど行いました。利用ルールの周知は9月初旬に行います。
この間、建屋自体に空調部門の社員がいるので見学にきました。来た人にこういう使い方なんですと紹介したらいつの間にか自由に来てもらえるようになりました。
やはり文章だけだと使っていただけないみたいで、その場に来た方に「ぜひ使ってください」とか、運動スペースにある「雲梯を最後まで全部できた人は1人しかいませんよ!」とか伝えると、男性陣がチャレンジしてみようかと、そんなことがきっかけで日々少しずつですが気軽に利用する方が増えています。
今も興味を持った人が昼休みにいろいろな器具などを自由に使っています。
例えば、若手が毎日お昼休みに卓球をやりに来ていたり、ルーティンで昼休みや就業後にバイクを漕いだりしている社員がいます。このように自分の健康やリフレッシュのために、気軽に使ってもらいたいです。
Q:このスペースが当初の想定通りに使ってもらえるかはわかりませんね!?どのように観察して改善していくのですか?
玉山:行動把握のためにカメラをつけて動線を見ていくのがよいのでしょうが、広さ的には大きめなので、なかなか難しいと思いました。
まずはポイントカードを用意して、来た人に判子を貯めてもらうとドリンクが無料になるサービスを行い、その代わりに何をしに来たのかを集計をとっていきます。どこに投資効果が高いのかを把握したいと思います。
佐藤:サントリーさんに協力してもらい、自動販売機に専用コインを入れるとドリンクが出てくるようにしてもらいました。5回来たらワンドリンクサービスにします。180円のトクホ茶も出るので、ちょっと困るんですけど(笑)
このスペースはセキュリティ・フリーにしているので、社外の人とディスカッションすることもできます。
出張でここに来る人たちにも、硬いカラダをほぐしてもらったり、リフレッシュ、イノベーションワークのために運動やディスカッションしてもらうなど勧めたいです。
Q:ドリンクカウンターの雰囲気は佐藤さんが狙っていたスタバ式ですね!?
佐藤:そうです。什器だけでなく、自販機も全てスタバコンセプトでシートを貼っていただきました。こういう演出、大切でしょう!?(笑)
Q:場だけ作って使われないという話しをよく聞きます。どうですか?実際のところ稼働率は?
佐藤:滑り出しは悪くないです。20代30代前半の若い社員が面白がって使いに来ます。
若い社員にとって、ある面こういうスペースが企業にあって当たり前、という感じもありますよね!? 抵抗感もないようです。
何人かで卓球をやりに来たり、毎日バランスボールで背中のストレッチをしにくる社員がいたりします。
玉山:就業時間中については人事部と調整中で、最大10分くらいなら使ってもいいでしょう。ということで落ち着きました。
個人的にはタバコを吸いに行っている人は1日何回も吸いに行き、戻ってくるまで20分くらいかかっているので、リフレッシュとして同じように考えたいと思ったのですが、新しい取り組みなので、まずは段階を踏んでいきましょうとなりました。
現状“健康デザインセンター”は、敷地内に複数ある建屋の中の1箇所しかありません。他の棟の役員からは「なぜこの棟にしか作らないんだ?」と言われました。
期待は持っていただいているので、まずは1箇所で運用が定着してから他に展開したいと考えています。
佐藤:実際に作っても運用されないと箱だけだったらもったいないですから。
数年後に渡辺さんから、「ここ倉庫になったみたいですね〜」とか言われないようにしないと(笑)
Q:今後の取り組みも考えていますか?
玉山:地域格差というのがあって本社の人間にしか提供できていないので、地域で頑張ってくださっている社員の方にも参画できるデジタルな健康ツールもいろいろな業者さんからご紹介いただいているので取り入れていきます。
動画で自分の動作を撮りながら、適切なポージングができているか確認できる運動コンテンツがスタートします。
他にはLINEで腰痛や肩こり、瞑想の指導を受けられるコンテンツも提供していきます。
一般社団法人 社会的健康戦略研究所で目指すこと
Q:かなりお忙しくされている状況ですが、佐藤さんがこの度“一般社団法人 社会的健康戦略研究所(※)”に参加することにした理由は何でしょうか?
佐藤: CSR的な活動として、自社の健康経営の取り組みを色々なところで話す機会があります。
聞いてくださった方と話しをすると、同じような悩みを持っている人がたくさんいて、大企業ならまだしも、中小や中堅でやりたくてもどうやってよいかわからないと聞くことがあります。
悩みながらも健康経営を本当にやりたいという企業担当者が集まって、今まで取り組んできた良いところも悪いところもみんなで共有できたらかなり役立つと思っています。
これからやる人だけでなく、私自身もメリットがあります。
今年4月にCSR本部を作りました。富士通ゼネラルのやり方を他の企業さんや団体に伝えることはゼネラルという企業の価値向上にもつながると思っています。
そのためにも、社会的健康戦略研究所に参加することは意義あることです。
代表理事であるフジクラ社の浅野さんの想いを共有しているからこそ参加することにしました。
いきなり大人数を集めて大々的にスタートするのではなく、同じ想いを持つ身近な仲間とはじめられるのは有意義なことです。
そして次の世代を育てていける、そんな社団を目指していきたいです。
【プロフィール】
株式会社 富士通ゼネラル 健康経営推進室長 兼 人事統括部 主席部長
兼 CSR推進本部 部員 佐藤 光弘
1984年富士通株式会社に入社。99年沖縄富士通システムエンジニアリング総務課長、2004年に富士通に復職し、マーケティング本部人事部担当部長として、当時のSEに働き方改革・構造改革に従事し、2008年健康推進本部健康事業推進統括部長として、富士通グループ全社員の健康推進体制の構築、2012年東京大学大学院医学部・日本生産性本部共同設立の「健康いきいきづくりフォーラム」設立準備会メンバーとして参画、2016年4月株式会社富士通ゼネラル人材開発部主席部長として出向、現在に至る。
株式会社 富士通ゼネラル 健康経営推進室 玉山 美紀子
(初級産業カウンセラー・メンタルヘルス法務主任者)
1997年商社系リース会社勤務後、アデコ株式会社にて営業、人事教育部門を経て、産業保健・安全衛生部門の立上げに携る。育休後、人事部にてメンタル不調者の対応を行う。その後、株式会社損保ジャパン(現損保ジャパン日本興亜)でEAP事業のヘルスケアコンサルタントとして勤務。2009年に富士通株式会社に入社。人事部門から独立した健康推進本部立上げに携り、ストレスチェックの組織評価をES調査と連携して活用し、職場活性化の一助として展開。日本生産性本部「健康いきいき職場認証スターター認証制度」の企画にも関与する。2015年人事本部労政部、2017年GSI本部人事部(SE担当人事部)、2018年9月より株式会社富士通ゼネラル健康経営推進室に出向。現在に至る。
(※)一般社団法人 社会的健康戦略研究所
株式会社フジクラ健康社会研究所CEOの浅野健一郎氏を代表理事に、今年10月より開始する「一般社団法人 社会的健康戦略研究所」は、人生のライフステージに合わせ、WHOの定義する“健康”の実現のため、社会的健康度の改善、持続可能な共生社会実現を日本のみならず世界でも主体的に行うことを目指す組織です。スクール研究部会、職域研究部会、地域(シルバー)研究部会の3つで構成されます。
10月より他部会に先行する形で、職域研究部会がスタートします。
当面は有志による参加にて研究をはじめ、約3ヶ月議論した内容を1月29日、東京ビッグサイトで開催される「ヘルスケアIT」にて発表いたします。
「一般社団法人 社会的健康戦略研究所」の情報は、随時mHealth Watchにてお伝えしていきます。
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