去る1月28、29日に『ヘルスケアIT 2020』が開催されました。本稿では、会場で行なわれたセミナー『「社会的健康戦略研究所」発足の趣旨と活動のご報告』の模様をお送りします。
セミナーでは社会的健康戦略研究所の代表理事を務める浅野健一郎氏、社団メンバーが登壇し、一般社団法人発足の経緯と活動内容を紹介。また、社団メンバーによる活動報告が行なわれました(撮影日:1月29日/取材:脇本和洋、小松智幸)。
■変化している価値観と社会
日本の生産年齢人口は、どんどん減ってきている。1956年、日本人の人口に対し、65歳以上は7%だった。2050年には65歳以上の人口は40%になると予想されている。今後30年の間に、我々は社会構造を変えていく必要がある。
GDPが国の豊かさや国力を示さなくなってきている。我々は何に従って目標設定をして経済活動を進めていけばいいのか?
こうした背景から状況が変わることによって、価値観も変わってくる。お金を払って手に入れたいものとは?
ひとつの側面は「個別化」。わかりやすい例では、パーソナライズしたプログラムで1対1のサポートをリアルで提供するライザップ。情報の検索による発見可能性ではGoogle、即時性ではAmazonなど、時間に対する価値を提供する、またベースとなる「信頼」を提供するサービスが重視される時代とも言える。
今は変化が非常に早く、未来を予測しづらい社会。そんな不安な時代に立ち向かう人類の知恵として出てくるのが「ダイバーシティ(多様性)」、「オープンイノベーション(共創)」、「シェアリングエコノミー(共有)」。それぞれ、従来行なってきたこととは真逆の発想が主流になっている。
価値観が変わってくると、社会が変わっていく。それを具体的に表しているのが「ソサエティ5.0」。社会のあり方は、狩猟社会→農業社会→工業社会→情報社会を経て史上5番目の社会「ソサエティ5.0」を迎える。そのネーミングは正確には付いていないが、「人間中心社会」と言える。
■社会的健康戦略研究所のミッションとコアポリシー
これからは人類未踏のフェイズに入っていく。年齢構成、経済、社会保障、環境問題、どれもが未知の領域のなか、解決すべき課題を世代的にコミットしているのが「SDGs(持続可能な開発目標)」や「ミレニアムゴール」。
ソサエティ5.0の本質は、経済活動のなかで社会課題を解決していくこと。
その主体は政府ではなく、我々民間が当事者として人間中心社会のなかで行なっていくようになる。
こうした社会的背景のなか、設立したのが社団法人。
一般社団法人社会的健康戦略研究所は、「個人、集団の社会的健康度を上げる」ことをミッションとしている。
身体、精神、社会的に良い状態を「健康」と定義し、以下のコアポリシーを軸とする。
1.人、集団の健康をより良くすることを基軸とする
2.持続的な社会の実現をゴールとする
3.経済発展と社会課題解決を両立する手法論を追求する
4.常に外部性(波及性)について十二分に考慮・考察する
5.民間主導型の市場創造アプローチを基本とする
■健康経営の本質は「経営、社員、社会に良し」
健康の必要条件のひとつ「社会」は、家庭と「学校・就労・地域」に分かれる。状況として、これらの整備がもっともできていないため、それぞれをカバーすべく準備を進めている。具体的な活動として上記に関連した3つの研究部を立ち上げ、活動を開始していく。職域研究部は2019年に立ち上げたので、2020年は学域研究部、地域研究部を立ち上げる予定。
すでに職域研究部が立ち上がっている背景には、社会的健康を健康経営の視点で捉えていることが挙げられる。これは社会変化への適合、企業経営の変革とも言える。
日本古来から言われている近江商人の「三方良し」になぞらえると、「経営に良し、社員に良し、社会に良し」。これが健康経営の本質と言える。
職域研究部では、プレイヤーそれぞれの立ち位置から健康経営を捉えるため、3つのユニットに分けている。経営者視点から考える経営コンサルユニット、運営者視点から取り組む担当者ユニット、経営目的を達成するために事業価値を考える事業者ユニット。
■国際標準策定の道筋
社会的健康戦略研究所では社会的健康活動を通じて、市場へのアプローチと国際標準(ISO)の策定を同時に行なっていく。
ISO/TC314(高齢化社会:エイジングソサエティ)を対象に、第1号規格として、「高齢化社会に対して組織としてウェルビーイングを達成するためのガイダンスを与えるマネジメントシステム」を策定する。第1号はマネジメントシステムなので、機能や水準を規定するものではないが、将来的にその子規格として、デバイスや分析方法、食事指導など具体的な目的を持つ規格が作成される予定。
国内委員会を今年4月に立ち上げ、2022年10月の策定を目標に進めていく。
改めて、先に挙げた社会的健康戦略研究所のミッションとコアポリシーに賛同し、一緒に研究を行なってくれる仲間が増えることを願う。このあと、職域研究部の各ユニットの活動報告を紹介していく。
■担当者ユニット活動報告:東芝ライテック株式会社 大草祥一氏
大草氏が所属する担当者ユニットでは、各社の健康経営の取り組み状況、推進に対する課題共有と解決策を議論。さらに経営理念や課題に対し、実現可能性について検証を行なった。
東芝ライテックの取り組みは、運動増進のためにバーチャルウォーキングで日本縦断を企画。北海道から沖縄まで約5600km踏破を目指し、各地の拠点に到達するとインセンティブとして健康グッズを得られる催しを2月からスタートする。
そのほか、アドバイザーを交えたディスカッションを経て、健康経営推進を社内で周知していく経緯や手法などを報告した。
■経営コンサルユニット活動報告:MS&ADインターリスク総研 西田耕太郎氏
経営コンサルユニットでは、先に出た担当者ユニットが抱える課題、経営者視点を意識し、3つのテーマで議論してきた成果を報告。
1.企業マネジメントなかで健康経営をどのように位置づけるか
2.社会課題解決に企業はどのように関わるのか
3.健康経営のマネジメントオファリングを作る
さらに、4月以降で取り組みたいテーマとして以下を挙げ、今後の活動に繋げた。
・健康経営への組織開発手法の取り込み
・健康経営で利用するKPIの整備
・パイロットユーザーでの実践
■事業者ユニット活動報告:ライオン株式会社 青野恵氏、NECソリューションイノベータ株式会社 田中博典氏、株式会社asken 横田朋大氏
サービス提供者として自社で培ってきたソリューションを持つ6社が参加している事業者ユニット。食事記録からAI栄養士がアドバイスを得られる健康管理サービスを運営するAsken、オフィス分析から生産性の高い働き方提案を行なうイトーキ、企業の健診結果をAI分析し、指導支援を行なうNECソリューションイノベータ、ウォーキングイベントサービス『RenoBody』を運営するネオス、生活習慣病の予防効果データを分析し、企業向けに改善提案を行なうサービスを運営する日立製作所、睡眠にフォーカスして企業の生産性向上や健診サポートを行なうライオンが参加している。
事業者の課題は以下の3点で整理し、議論を通じて各課題の掘り下げを行なった。
1.健康経営の意味・意義の理解
2.健康経営上の課題を明確にする
3.課題解決できる施策を提案する
6社によるディスカッションから見えてきた4つの項目として以下を挙げ、得られた気づきを報告した。
・健康課題と人材課題がバラバラで議論されているケースが多い
・単体の事業者で解決できる課題、複数事業者で解決できる課題がある
・サービス事業者と健康経営を推進する現場担当者の二人三脚が前提
・施策方針や効果測定など、共通のコミュニケーションツールが必要
■職域研究部のまとめ:社会的健康戦略研究所理事 植田順氏
3ユニットから成る職域研究部の総括として、約4ヵ月の活動期間を振り返って以下を整理。
・健康は企業にとって大きな資本
・健康経営は組織の健康から
・視点を変えて行動を変えていく
・健康経営は不確実性の時代の経営手法
上記を踏まえて社会的健康戦略研究所が実現したいこととして以下を挙げ、これからのメンバーとの共創を訴えた。
・健康経営という新しい経営手法を追求し、根付かせる
・企業の中に「組織健康」を維持する仕組みを作り、社会的健康(就労)を作る
・企業が社会的健康(地域、家庭)を作ることに貢献できる仕組みを作る
最後に同理事の重野俊哉氏、佐藤光弘氏、渡辺武友氏が登壇し、社団の活動内容と各ユニットの要項を紹介し、新メンバー募集を呼びかけ、セミナーは終了した。
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