「組織や個人の健康状態を数値で可視化し、取り組むべき課題を見つける」
株式会社FiNC ウェルネス経営事業本部 ウェルネス経営事業部長 長田直記氏
前回に引き続き、健康経営の法人向けヘルスケアサービスで注目を集めているサプライヤーをご紹介します。
第2回は法人向けウェルネスサービス「FiNC for BUSINESS」を提供する株式会社FiNCに、従業員の健康状態などを可視化できる「FiNCウェルネスサーベイ」開発の背景や、サービスメニューの特徴などをお聞きしました。(取材日:6月13日/インタビュアー:脇本 和洋/撮影:渡辺 武友)
BtoC向けサービスをアレンジしながら、BtoB向けサービスを構築
Q:御社が手がけるAIを駆使した「FiNCアプリ」は200万DLを突破し、ヘルスケア/フィットネスのアプリとして代表的なものになっていますね。BtoCではほかに、アプリを介して管理栄養士やトレーナーが食事や運動をマンツーマンでアドバイスする「FiNCダイエット家庭教師」などがありますが、今回は法人向けウェルネスサービス「FiNC for BUSINESS」について、詳しくお話を聞きたいと思います。事業展開のきっかけは何でしょうか?
長田直記氏(以下:長田):私がFiNCに入社したのが2015年9月なのですが、弊社では「FiNCウェルネス家庭教師」の提供をはじめた頃でした。アプリを介して専門家がオンラインの食事指導を行うものです。もともと、個人向けのオンライン指導「FiNCダイエット家庭教師」を提供していたので、それを法人向けにアレンジしました。
ちょうどその頃、従業員が50人以上いる事業所では、ストレスチェックの義務化が決まっていました。しかし、従業員それぞれの生活習慣や悩みを把握して、健康経営を実現するには、ストレスチェックだけでは足りないと考え、国が推奨するストレスチェックの57問にプラスしてアンケートを加えたサービスをリリースしました。
その後、顧客の声や今後の動向を鑑みながらアプリを通じて福利厚生サービスを受けられるようにしたり、アンケートの内容を見直し「FiNCウェルネスサーベイ」を作ったり、さまざまな発展をしながら、現在の「FiNC for BUSINESS」になっていったのです。
Q:「FiNC for BUSINESS」のサービスとしては、どういったものがあるのですか?
長田:従業員や組織の健康状態などを可視化する「FiNCウェルネスサーベイ」、健康意識を高める「FiNCウェルネスラーニング」、悩みや生活習慣に合わせた健康アドバイスをAIが行うアプリ「FiNC@WORK」の3つがあります。
オプションサービスについては、グループでの食事指導を行う「FiNCウェルネス家庭教師」があり、健康的な間食を提供する「オフィスFiNC 」、専門家による各種研修を行う「FiNCウェルネス研修」などがあります。
Q:「FiNCウェルネスサーベイ」の特徴について教えてください。
長田:「FiNC for BUSINESS」を利用している企業の従業員は、PCやスマホで、生活習慣やメンタル、エンゲージメントなどに関する97問の質問に回答します。その結果、管理画面「FiNC INSIGHT」で従業員や組織の健康状態が可視化されます。これを見て、人事制度の見直しや健康経営の施策の検討など、具体的対策を講じることができるのです。
2017年11月からは、それまで人事などの管理者が組織単位でしか見ることができなかった「FiNCウェルネスサーベイ」の結果を、従業員自身も閲覧できるようになりました。
フィジカル・メンタル・エンゲージメントの3要素で分析
Q:「FiNCウェルネスサーベイ」では、従業員の状態をフィジカル・メンタル・エンゲージメントの3要素で分析されていますが、その目的は何ですか?
長田:フィジカルは身体、メンタルは心・精神、エンゲージメントは「従業員が仕事から活力を得て、仕事に誇りを感じ、いきいきと仕事をしている状態」のことです。その3要素で見ないと、我々や先進的な企業さんが目指している「いきいきと働く状態の実現」は難しいと思ったからです。
これまで健康経営に取り組む企業の多くは、フィジカルとメンタルの部分に着目していました。しかしエビデンス上でもフィジカルやメンタル、エンゲージメントは相関があるといわれています。厚生労働省が作成した新職業性ストレス簡易調査票でも、エンゲージメントの指標が盛り込まれています。従来のストレスチェックだけではなく、エンゲージメントを指標に入れて、現状と要因を偏差値にすることで、対応すべき項目の優先順位を明確にできると考えたのです。
Q:分析された結果は「FiNC INSIGHT」で見ることができるのですね?
長田:はい、フィジカル・メンタル・エンゲージメントについては、75項目で見ることができます。その他、アブセンティズム(病欠、病気休業)やプレゼンティズム(何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態)についてもデータを出し、健康不調でどれだけのロスが発生しているか、睡眠の質や満足度が低い人は、どういった項目と相関があるのかも分かるようになっています。
例えば、「睡眠の質や満足度が低い人」は「仕事内容・やり方への葛藤を感じているという人」との相関があるとします。そのデータに基づいて、仕事内容・やり方を改善すると、睡眠の質が上がるかもしれません。逆に睡眠の質が上がれば、仕事の内容・やり方への葛藤が減るかもしれません。そういった相関が見えるようになっているのです。
さらに「FiNCウェルネスサーベイ」では、受検者を母数としたとき、その企業の偏差値がどれぐらいなのか、総合スコアとメンタル・エンゲージメント・フィジカルの各項目で出しています。相対的に自社の立ち位置が分かるのです。
Q:受検者というのは、貴社のサービスを受けている企業の従業員という意味合いですか?
長田:そうです。
Q:エンゲージメントの項目を見ると、「評価・待遇に満足していない人」「仕事への意欲が低い人」など、健康とは一見、関係がない項目も多いですよね? それらも含めて聞き、どこが課題かを見つけていくということですか?
長田:そうですね。世界保健機関憲章の前文に「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます(WHO日本協会訳)」という部分があるのですが、「社会的にも」というところは、エンゲージメントに近い要素があると思っています。
「FiNCウェルネスサーベイ」で分析されたエンゲージメントを見ると、メンタル要素での不満や、フィジカルの要素にも影響がありそうというのが見えてきます。これらの本質的な課題に気付ける環境がないミドルマネジメントの方が、実は多いのではないかと思っています。ミドルマネジメントの方が取り組むべき課題を見つけて、改善策を定めてPDCAを回して頂きたいと思っています。
自分自身で状況を把握して、自分ごと化することが大切
Q:取り組むべき課題を見つけたら、どのように解決するのですか?
長田:施策として人事の方が検討してもいいですし、弊社でも課題を解決する各種ソリューションを提供しています。「FiNCウェルネスサーベイ」は、部署別、男女別といったニーズに応じて、絞り込みもできます。部署別に現状を可視化してフィードバックシートを作り、部署内みんなで改善のアイデアを出し合うのもいいですね。
Q:自社でやれること、貴社に委託することをうまく使い分けながらやりましょう。ということですか?
長田:はい、そうですね。「人生100年時代」という言葉がありますが、個人が振り返る場を作り、65歳以降も働けるような心身と、ハイパフォーマンスを保てる職場環境を作っていくことが、自身のためにもなるのだと認識させることが重要と考えます。またこの取り組みの結果、優秀な人材を留め置くことが可能な職場つくりにも繋がると思っています。
「FiNC for BUSINESS」を導入していただいている、あるメーカーさんのところでは、サーベイの分析を使って、ミドルマネジメント(中間管理職)向けのワークショップも行っています。従業員の方にいろいろな経験をしていただいて、エンプロイー・エクスペリエンス(従業員の経験価値)を高めていくことが目的です。そして、最終的には生産性を上げ、あるいはプライベートでも楽しく過ごしていただけるような社会、企業を作ることを実現したいと思っています。
Q:ワークショップとはどんなテーマで、何をゴールにするソリューションなのですか?
長田:企業としてどういう方向を向いているのか、ビジョンの再認識から始めます。そして、なぜ企業や経営トップが健康に力を入れようとしているのかを、みなさんで考えてもらいます。トップからいわれても、人はなかなか動きません。継続のためには、自分自身でしっかりと状況を把握して、自分ごと化することが大切です。「この施策なら明日からでもやれる」「そもそも、なぜ健康といっているのか」と考えてもらい、自分なりの健康ビジョンを作ってもらいます。
また、弊社に在籍している管理栄養士やトレーナーが、カラダや食事の状況がパフォーマンスに影響することをお伝えしています。サーベイを使ってパフォーマンス分析などもしているので、今後はそういった情報を基に、どういうところを目指していくのかをワークショップの中でやりたいと思っています。
Q:対象は人事部のミドルマネジメントですか?
長田:いえ、現場の方ですね。よく「健康に力を入れることで、業績が上がるのか」という疑問がありますよね? ワークショップを行い、3か月後なり半年後なりに「売上がアップした」「利益率が改善した」という実績を作ろうと、お客様と会話しております。
Q:とても示唆に富むお話ですね。通常は人事部の人に「なぜ、健康が必要なのか」と提案をしますが、従業員の人に対してはそこまで落とし込めていない。だから、サービスを受ける人がまず「なぜ、健康が必要なのか」を理解してもらうということですね。
長田:そうですね。生活習慣を変えるには、自分の行動を変えることが関係します。自分にとっての健康という切り口から、当事者意識を醸成させるほうが、よりやる気や生産性が高められるのではと思ったのです。
BtoCでのノウハウを生かして、健康を分かりやすく伝える
Q:スタートパックに含まれる「FiNCウェルネスラーニング」について教えてください。
長田:いろいろな企業さんから「健康に興味がない従業員に、どう興味を持たせるか」が課題になっているとお聞きしたので、今年の5月末に「FiNCウェルネスラーニング」という、eラーニングの仕組みを作りました。
今年2月にある製薬会社さんとお話したのですが、「私たちは分析を細かく行い、アブセンティズムやプレゼンティズムの損失コストも出している。これから必要なのはヘルスリテラシーだ」とおっしゃっていました。
ヘルスリテラシーとは健康に関する情報を正しく理解し、効果的に利用する力のこと。経済省も「ヘルスリテラシーの向上が大事」と掲げ始めた時期でしたので、取り組むに値するテーマだと思ったのです。おかげさまで、すでにある企業での採用が決まっています。
Q:企業は「FiNCウェルネスサーベイ」で従業員の状態を分析し、課題を抽出し、従業員に対しては専用アプリ「FiNC@WORK」でそれぞれの生活習慣や悩みやライフスタイルに合わせたアドバイスをAIが行う。加えて「FiNCウェルネスラーニング」でヘルスリテラシーを向上させるわけですね。
長田:例えば、今はパソコンが入ったカバンを電車の網棚に置く人ってほとんどいませんよね!? でも、15年ぐらい前までは網棚にカバンを置くことのほうが普通でした。なぜ、そうなったかというと、会社からパソコンの盗難や置き忘れによる情報漏えいのリスクを教育されたからですよね。「会社からいわれて仕方なくやっているけれど、すごく記憶に残っている」というようなことを、我々もやりたいと思っています。
ランチのときにも「eラーニングやった?」「炭水化物から食べたらダメらしいよ」「野菜をもっと取らないと」といった話題が出ればいいですよね。BtoCのアプリを提供し、カスタマーに近い距離でやっている私たちだからこそ、健康というものを分かりやすくお伝えすることができるのではないかと思っています。
Q:BtoCでやってきたノウハウが生きていますか?
長田:すごく生きていると思いますね。「FiNCウェルネスラーニング」は、BtoCのアプリで使っていたクイズの画面を2次利用しています。そうするとより早く、いいものができます。
Q:今後の展開はどのように考えていますか?
長田:特に今後の課題と考えているのは、工場で働く人たちに対するソリューションです。工場内にはスマホを持ち込めませんし、1人1台のPCを持っているわけでもないので、「FiNCウェルネスサーベイ」を効果的に利用できないのです。また、食習慣を改善させたくても、食堂以外の選択肢がなかったり、工場内にカップラーメンの自販機があったり。夜勤のある日は夕食を食べないという人もいます。そうした職場環境でも、心身ともに健康になれるような仕組みが何かできないかと考えています。
エンプロイー・エクスペリエンス(従業員が組織や会社の中で体験する経験価値)をひとつのキーワードとして、生産性を上げる具体的なソリューションと実績を作ることが重要です。営業やエンジニア、ディレクター、オペレーションなどが集まった「法人プロジェクトメンバー」というのがあり、自分たち自身で「FiNC for BUSINESS」を実践活用しています。サーベイの結果を見て、メンバーが「この組織をどうしたい?」「どうしたらワクワク働ける?」などと話し合います。
昨日、ワークショップをやったのですが、多くのアイデアが出ていました。当社のサービスがどのように活用できるのか、従来気付かなかったことが出てきて、それが事例となってソリューションになっていく可能性もあると思っています。
Q:本日は貴重なお話をありがとうございました。
【プロフィール】株式会社FiNC ウェルネス経営事業本部 ウェルネス経営事業部長 長田 直記 氏
立命館大学経営学部経営学科卒。2004年に日本ユニシス株式会社に入社。流通営業部門にて、2005年に事業部特別賞、2006年に事業部新人賞を受賞。2011年より大手通販企業向けのITアウトソーシングサービスのサブマネージャーとして国内外のメンバー130名程度の人材マネジメントとコストマネジメントを実施。その後、日本ユニシスの東南アジア進出検討の為、シンガポールに駐在事務所の立ち上げを推進。本功績を認められ2015年には部門特別賞を受賞。2015年9月よりFiNCに入社し、組織人事を担当後、2017年11月にウェルネス経営事業部に異動、現在は、法人向け健康経営サービスを手掛ける。
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