「現状把握、実践、分析評価、改善の4ステップで健康経営をサポート」
株式会社エムティーアイ ヘルスケア事業本部 副事業本部長 秋田正倫 氏(写真左)
株式会社エムティーアイ ヘルスケア事業本部 CARADA事業統括部 CARADA事業部 企業向けCARADAグループ グループリーダー 杉本元 氏(写真右)
前回に引き続き、健康経営の法人向けヘルスケアサービスで注目を集めているサプライヤーをご紹介します。
第3回は健康経営の持続的推進をサポートする「企業向け CARADAパック」を提供する株式会社エムティーアイに、サービスメニューの特徴や従業員の健診&健康データを数値やグラフで可視化する「CARADA健康支援」などについてお聞きしました。(取材日:2018年6月19日/インタビュアー:脇本和洋/撮影:里見将史)
ストレスチェック義務化で、従業員の健康管理への関心が高まってきた
Q:御社は特にヘルスケア系サービスに力を入れていらっしゃいますよね。女性の健康情報サービス「ルナルナ」や、健康管理アプリ「CARADA」など、BtoC向けの印象がとても強いのですが、「企業向け CARADAパック」はいつから提供されているのですか?
秋田正倫氏(以下:秋田):ルナルナは2000年に携帯サイトとしてスタートし、2010年にスマートフォンアプリをリリースしました。おかげさまで1,200万DL(2018年3月時点)
Q:法人向けに事業展開を始めたきっかけは何でしょうか?
秋田:「CARADA」ブランドを始めたとき、テレビCMなどでプロモーションを行ったのですが、思ったような反応がありませんでした。能動的にヘルスケアに取り組む人は、それほど多くないというのを実感したのです。もちろん、健康への興味や関心が高い人もいますが、実は本人そのものよりも、まわりが「この人に健康になってほしい」と思っているのではないか?その代表が企業なのでは?と考えたのです。ちょうど、2015年12月にストレスチェックの義務化が始まり、従業員の健康管理に対する関心が高まっていたこともあり、「企業向け CARADAパック」の提供をスタートしました。
Q:「企業向け CARADAパック」のサービスはどういったものがありますか?
秋田:「企業向け CARADAパック」は、4つのステップで健康経営のサポートをします。まず、カラダとココロの両面で従業員の健康状態を「現状把握」し、健康意識を高めるイベントやセミナーを「実践」します。そして、取り組みの効果を「分析評価」し、今後の対策を提案する「改善」を行います。
スタートパックとして、健診結果と健康意識調査の結果から、現状の健康状態を把握する「パフォーマンスチェック」、健診結果を集約する「健診データ化」、健診結果を数値やグラフで可視化する「管理ツール」、健康データと健診結果を記録・管理できる「CARADAアプリ」があります。
オプションとしては、健康意識レベルに合わせた「WEBイベント」、専門家による運動、食事、意識変容、メンタルなどの「セミナー各種」、義務化に対応した「ストレスチェック」、ココロとカラダの悩みをいつでも質問できる「WEB相談」、「健康経営優良法人認定取得支援サポーター」、栄養士が生活習慣改善をお手伝いする「MY栄養コーチ」などを用意しています。
Q:個人向けの健康管理アプリ「CARADA」と、「企業向け CARADAパック」で提供している「CARADAアプリ」は内容が違うのですか?
秋田:歩数や睡眠など日々のデータを管理する基本機能は変わりません。大きく違うのは健診結果の管理です。個人向けは自分で健診結果を取り込みますが、法人向けは自動的に反映されるようになっています。
健診結果のデータ化と健康意識調査でパフォーマンスを分析
Q:健診結果と健康意識調査の結果から、現状の健康状態を把握する「パフォーマンスチェック」について教えてください。
杉本元氏(以下:杉本):健康経営の継続的推進には、PDCAサイクルの循環が重要なのですが、PDCAを負担に感じる企業も多くあります。そのため、まずは健診結果のデータ化と健康意識調査の結果から、現状を把握しましょうというサービスです。
以前は健診結果だけで見える化をしていたのですが、若い人が多い業種は課題が見えてきませんでした。中高年の男性は「コルステロール値が高い」「血圧が高い」など、健診結果から健康課題がよく分かりますが、若い女性は一見、血圧は正常値で脂質も問題なしというケースがほとんどです。ただ、100パーセント健康というわけではありません。そのため、健診だけではなく、健康意識調査という形で、従業員のみなさんにアンケートを取るようにしたのです。
生活習慣や業務環境、不定愁訴(はっきりとした原因は分からないが、体調不良の自覚症状があること)などを聞き、クロス分析した結果を冊子状のパフォーマンス分析レポートとして出しています。
パフォーマンス分析レポートは、全社や本社、部署ごとに「パフォーマンススコア」を評価しています。また、「職場の一体感」「ワークエンゲージメント」「健康への意識と行動レベル」「パフォーマンス低下に影響を及ぼしている体の不調」「その不調を引き起こしている生活習慣」が分かるようになっていて、パフォーマンススコアが低い場合、何が原因なのか、相関のあるものを見つけることができます。
Q:パフォーマンススコアや、パフォーマンス低下の原因は部署によってだいぶ異なるのですか?
杉本:はい、部署によって職務環境や残業時間が違うので、それぞれの違いが顕著に出ます。例えば、本社のパフォーマンススコアが低かったとします。何が原因なのかを見てみると、疲れや頭痛、イライラといった「体の不調」と、運動ができていない、休養が取れていないなどの「生活習慣」が相関していることが分かるのです。定量的・定性的にこういった部分を踏まえて課題を把握し、それに対してどう取り組むかの提案まで行います。
Q:パフォーマンス分析で見えてきた課題に対して、どのような提案を結びつけるのですか?
杉本:例えば、「健康への意識と行動レベル」が低い部署で健康セミナーをやっても、パソコンを持ち込んで仕事をしたり、寝てしまう人がいたりして、あまり効果がありません。逆に健康意識が高い部署でセミナーを行うと、メモを取りながら真剣に聞いている。同じ会社の従業員でも、部署によってまったく反応が違うのです。そのため、健康意識が高い部署にはセミナーを行い、低い部署にはチーム対抗の「WEB歩数イベント」などでまず楽しみながら行動をしてもらうところから始めて頂きます。「みんなに迷惑を掛けないよう、ちょっとだけがんばろう」「ちょっと楽しいかも」と始めたイベントが、やってみると「カラダがスッキリしているな」と思えるわけです。こういった定性的な部分も含めて分析し、提案しています。
Q:WEB歩数イベントは、どんなことをするのですか?
杉本:「CARADAアプリ」に記録された歩数を基に、チームで歩数を競うイベントです。行動科学の理論に基づいたプログラムを取り入れ、47都道府県をめぐりながら日本を横断したり、四国を疑似的にお遍路したり、楽しみながら運動習慣を身につけることができます。
社会人のストレス要因は、そのほとんどが職場の人間関係というデータがあります。チームを組んで歩数を競い合うイベントを行うと、コミュニケーションが増えた、人間関係が改善されたというアンケート回答が多くありました。運動習慣をつけることでカラダの不調や生活習慣を改善し、同時に職場の一体感にアプローチすることで、パフォーマンス向上にもつながっていきます。
また、肩こりや腰痛など病院や治療院へ行くほどではない「体の不調(不定愁訴)」については、何が肩こりや腰痛の原因になっているのかメカニズムを知り、改善する為に日常生活のなかでもできるエクササイズを紹介するようなセミナーも開催しています。こちらは数々のトップアスリートを支えてきた株式会社R-body Projectのコンディショニングコーチがオフィスで直接指導してくれる特別セミナーです。楽しみながら肩こりの原因や運動のパフォーマンスを落としている要因を解決するプログラムを組み合わせています。
どういうことから取り組むべきか、上流工程から関わっていく
Q:こういう取り組みは最初の導入から結果まで、長い期間が必要ですよね。1年で終わりではなく、継続的に導入してもらう工夫などはしているのですか?
杉本:健康診断のデータには現れてこなくても、人事部が主導で1年間取り組みを行った結果、ワークエンゲージメントが上がったという部分をもっとアピールしたほうがいいと考えています。それまで、健康経営の取り組みがあまり進んでいなかったり、課題を把握できていなかったりしたけれど、「企業向け CARADAパック」を導入したことで、何から始めてどのように修正していくべきかがわかってとてもよかったと評価してくださっています。
いちばん最初に「項目によってはあまり変わらない部分があるかもしれません」「すぐに結果が出るようなものではありません」とお話します。半年に一度、従業員の意識調査を行い、次の実践に生かすためにどうすればいいのかを決めていきます。
Q:「企業向けCARADAパック」は2016年9月からスタートして、約2年が経ちますが、サービスとしてはどんな形で進化していったのですか?
秋田:ヘルスケアのサービスをやっていく中でキーとなるのが「コラボヘルス」だと思います。コラボヘルスとは、企業と保険者(健康保険事業の運営主体)が協力しあい、従業員やその家族に対して効率的・効果的に健康増進を行うことです。国はコラボヘルスを推奨していますが、実際に行っている企業はそれほど多くありません。弊社では2016年に企業向けサービスをスタートしていますが、並行して何がいちばん効果的なのかをあらゆる角度で模索してきました。
実は特定保健指導を効果的に行える「健保向け CARADAパック」というサービスがあるのですが、そこでは「健康意識が高い人はすごくいい成果が出る」「もともと、健康意識が低い人は成果が出にくい」ということが分かりました。その後、健康な人も含めてグループを組み、WEB歩数イベントを行ってみたところ、表彰やボーナスなどを励みに、非常にいい効果が出たのです。
Q:どの部分が響くのか、何を求めているのかを、企業や保険者とコミュニケーションしてきた中で進化してきたという感じですか?
秋田:そうですね。「どのような取り組みをすべきか」という分析は非常にニーズが高いですね。本当に上流工程から関わっていくような感じです。企業や保険者の中には「何から手をつければいいのか分からない」というケースも多いので、どういうところから入るべきかを、いろいろな専門家の知見を取り入れながら提案しています。
行動経済学の理論を基に「行動を起こして、健康への意識を高める」
Q:専門家の知見とは、例えばどのようなことですか?
秋田:よく、健康になるためには「健康への意識を高めて、行動を起こす」と言いますよね。でも、行動経済学の先生は、最初に行動を起こすほうが簡単と言います。そうした理論を基に、いかに行動を起こす環境を作れるかに力を入れています。例えば、「鶏のささ身は脂質が低くて、高タンパクだから食べたほうがいい」と言ったとき、健康意識が低い人は「でも、パサパサして、おいしくない」と考えます。でも、「今日のラッキーアイテムは鶏のささ身だって。食べてみたら?」とアプローチを変えてみると、「食べてみたら意外とおいしい」「カラダの調子もいい」となるのです。
ヘルスコーチングやMY栄養コーチについても同様で、最初はアドバイスをしても、なかなか実行してくれません。そのため、「とりあえずこれを食べてみて」とすすめます。栄養バランスのいいものを食べていくうちに、どんどん調子がよくなって、健康への意識も高まります。「健康への意識を高めて、行動を起こす」ではなく、「行動を起こして、健康への意識を高める」という方向です。
Q:行動経済学を活用した先に、先ほどお話に出たWEB歩数イベントもあるのですか?
秋田:そうですね。まずは行動を起こすきっかけとして、つい歩きたくなるような仕掛けを用いています。チーム戦やランキングの発表、インセンティブなど、行動変容テクニックを活用することで、健康に対する行動・意識変容を促し、運動の習慣化をサポートします。
Q:たぶん今、企業も保険者も、意識が低い人をどうするかが永遠の課題で、答えが見つかっていません。そこに手を差し伸べることが必要だと気づき、トライしている状況なのですね。アプリの中には出てこない部分でのサービスやコンサルティングなど、いろいろと考えてやっているのですね。
秋田:ユーザーの健康もそうですが、いかに世の中を健康にできるのかを、有識者と試行錯誤しながらトライしています。その成果として、ICTのデータを活用して、その効果測定をしていくイメージです。
Q:以前、読んだ記事で、ルナルナは徹底したユーザーヒアリングを行い、それによってサービスをスピーディに変えていくと書いてありました。それがすごく印象に残っていて、BtoBでも同じようにしているのではと思っていました。対象は違うけれども、有識者の方に聞いて、スピーディに対応しているのが、すごく御社らしい部分だと思います。
秋田:「企業向け CARADAパック」で提供しているCARADAアプリやMY栄養コーチは、もともと一般向けでスタートしターゲットを理解しながらサービスを磨いてきました。BtoC向けに実施してきたことが強みだと思うので、BtoBにもそれを生かしています。
生活習慣病を減らすために何ができるのかを考えていきたい
Q:今後の展開はどのように考えていらっしゃいますか?
秋田:2016年3月にパシフィコ横浜で「神奈川県 モバイルヘルスセミナー」が開催されました。神奈川県が主催し、WHO(世界保健機関)とITU(国際電気通信連合)が協力、厚生労働省と総務省が後援しているセミナーで、日本の民間企業として登壇しました。
このとき、WHO非感染性疾患予防局長のダグラス・ベッチャー氏が「WHOはいままで感染症対策で取り組んできたが、現在、死因の7割が生活習慣病に起因する非感染性疾患である。この対策を真剣にやらなくてはいけない」と訴えていました。アジアにある多くの国では正しい知識、医師、医療機器が行き届いてない。これを一手に解決するのが、携帯端末技術を使用して医療サービスを提供するモバイルヘルスだと話していました。
また、2016年5月にジュネーブ(スイス)で開催したITU主催の“Digital Health for Healthy Lives and Wellbeing for All”に招待され、弊社創業者の前多が登壇したことがあります。当時のWHO事務局長だったマーガレット・チャン氏が「いままでの10年も、これからの10年も、eHealth、mHealthに力を入れていきます」といっていました。それほど、世界中の人がモバイルヘルスケアを必要としているのです。
生活習慣病でいちばん多いのが糖尿病で、発展途上国も先進国も同じように増えていて、誰も止められずにいます。糖尿病の改善には食事指導、運動療法、行動変容が重要なのですが、現状は投薬治療が中心です。遠隔診療の規制緩和が進んでいますが、医師不足などの問題もあります。医療機関と民間企業、自治体が一緒になって、何ができるのかを考えていきたいと思っています。
Q:御社の強みはモバイルだけでは対応しきれない部分も、アナログできちんとやっていこうとするところだと思います。興味深いお話をありがとうございました。
【プロフィール】
株式会社エムティーアイ ヘルスケア事業本部 副事業本部長 秋田正倫 氏(写真左)
2000年千葉大学工学部(修士)卒 キヤノン株式会社入社。その後、現職2007年株式会社エムティーアイ入社。マーケティング専門部署において調査・分析、およびプロモーション業務に従事し、事業部長に着任。2012年Healthcare事業部長に就任し、スマートフォンにつながるヘルスケア機器「カラダフィット」など多数のヘルスケア商品を開発。現在は、執行役員ヘルスケア事業本部副本部長に就任し、女性向けサービス「ルナルナ」、電子母子手帳「母子モ」や、ヘルスケア総合サービス「CARADA」など健康サービス普及の指揮をとっている。
株式会社エムティーアイ ヘルスケア事業本部 CARADA事業統括部 CARADA事業部 企業向けCARADAグループ グループリーダー 杉本元 氏(写真右)
2005年同志社大学経済学部卒 株式会社テレウェイヴ入社。その後2010年エムティーアイ入社。music.jp事業部にて営業窓口、新規事業立ち上げを経験したのち、ヘルスケア事業部に異動し、2016年8月からCARADAの企業向けサービスを担当。
Comments are closed.