ユーザーの意見に徹底的に耳を傾けることで生まれるNoomのサービス
Noom Inc. CEO セジュ・ジョン氏
ヘルスケアアプリはすでに4万以上存在すると言われている。そのなかでも数が多いとされるダイエットアプリ。現在2,000ほどのアプリをカテゴリー分けしている『Health App Lab』のなかでも、ダイエットアプリは200以上あり、制作者にも人気のジャンルだ。しかし、多くのダイエットアプリは記録してグラフ化するに留まっている。
そんななか、Noomはひと味違うアプリをリリースし、世界で1,900万以上もダウンロードされている。今年日本でも本格的な展開が始まったNoom社のCEO、セジュ・ジョン氏に同社の他とは違う、ユニークなポイントはどこにあるのかを伺った。(取材日:12月某日/インタビュアー:渡辺 武友)
なぜNoomが生まれたのか?
Q:Noom設立の経緯を教えてください。
「Noom設立前、私はテクノロジーが会社を成長させ、社会に対して大きな影響を与えられる、ということを知っていました。世界を変えたかったのです。アーテムとは従兄弟の紹介で出会いましたが、彼が賢いだけでなく、協調性と誠実さを持ち合わせた、技術面を担う共同経営者として最高の人材であることがすぐにわかりました。
彼と話し、ふたりとも大きな会社を立ち上げたい、という野心があることがわかり、一緒に事業を始めると決めてからは、一緒に参入の価値がある、しかしハイテクノロジーがまだ浸透していない市場はどこなのかとことん調べました。そして、ウェルネス・フィットネス分野がまだテクノロジー的に十分発展していないということに気がつきました。テクノロジーで最高のウェルネス・フィットネスサービスを展開できる会社を作りました。
いつでも簡単に取り出せるという『モバイル性』ということがカギとなり、スマートフォン自体とても強力なものになりました。安定したインターネット環境と動作の速いスマートフォンがある現代だったら、素晴らしいサービスを提供できると考えたのです。
世界中からエンジニアひとりひとりの才能を見極めながら集め、ここまでNoomというチームを作り上げてきました。スムーズに、楽しくやってきました。『ウェルネス産業で新しいサービスを創り、過度なマーケティングはしない。その素晴らしいサービスは一流のテクノロジーに支えられて、うまくやっていける』というのがもともとの私たちの信条ですが、それは今でも変わりません」
Q:「ウェルネス・フィットネス分野がまだテクノロジー的に十分発展していないことに気づいた」とのことですが、なぜダイエットをメインに考えたのでしょうか? 健康テーマには他の選択肢もあったのではないでしょうか?
「生活習慣病についての問題が深刻ななかで、テクノロジーが人々の生活に大きな変化をもたらすことに注目しました。テクノロジーによって、ユーザーがヘルシーな食生活を手に入れられるように導くことが可能だと考えたのです。
Noomはスタートアップ企業ですが、専属シェフを雇い、社員は毎日日替わりでヘルシーランチを食べられるようにしています。サービスを提供する社員にも、自分の健康に気付きを与え、サービスに反映してもらっています」
ダイエットにおける、他社アプリとの違い
Q:Noomは、複数のアプリを提供しています。バリエーション展開している理由を教えてください。
「私たちが主に力を入れているアプリは『Noomダイエットコーチ』で、ひとりでは難しいダイエットをサポートするアプリです。よりシンプルな『CardioTrainer』と『Noomウォーク』という簡単なダイエットアプリも出しているのですが、ユーザーがそれらを気に入ってくれたなら『Noomダイエットコーチ』も見つけて使ってみてくれるだろうと考えています」
Q:『Noomダイエットコーチ』はアメリカ、韓国で成功しています。市場にダイエットアプリが溢れているなかで、その成功要因はどこにあったのでしょうか?
「他のダイエット系サービスのような、過剰なマーケティングは決してしません。サービスのクオリティーやユーザーとのコミュニケーションなどの質を重視する、ということです。常にNoomチーム全員が、ユーザーの声に耳を傾けています」
Q:他のダイエットアプリとの違いは、具体的なアドバイスがもらえることだと考えています。そこに貴社独自のノウハウがあるのではないですか? 特長となるところを教えてください。また、「ユーザーの声に耳を傾けている」とのことですが、どのように反映されているのでしょうか?
「Noomでは、これまでのユーザーの行動やウェイトロスの成果に関するデータを集約し、それをエンジニアの高い技術によってプロダクトに反映させています。そうすることでユーザー個人にパーソナライズされたダイエットプランの提案ができるのです。また、アメリカ国立衛生局と協力関係にあるので、専門家からの意見も取り入れることができています。
週に何度もユーザーと電話で話し、ダイエットの進行状況の確認をしたり、フィードバックをもらいます。時にはユーザーにニューヨークの本社に来てもらって、社員みんなと話しをすることもあります。ユーザー側も積極的に関わろうとしてくれるので、距離を近く感じ、大変嬉しく思います。ユーザーからの話は社内でシェアしていますし、アプリも週1回アップデートしているので、ユーザーからの声をすぐプロダクトに落とし込んで形にできるよう努めています」
Noomの今後の展開
Q:アメリカでは『Noomダイエットコーチ』が医療機関などにも導入されています。評価されたポイント、またどのようにプロセスで医療機関に導入されたのでしょうか?
「生活習慣を変えるだけで健康状態は大幅に改善されます。スマートフォンは生活習慣を変える強力なツールと言えます。Noomは看護側や患者自身が望むような、生活習慣上の改善のサポートをして、生活や健康においての情報を集めたり、シェアしたりするチャネルの提供もできるのです。スマートフォンで、必要な情報の記録が取りやすくなるという看護側からのメリットもあります。
私の家族が医療に携わっているので、医療はいつも自然と興味の内にありました。『健康改善』は会社としての中核ですから、次のステップとして医療分野で事業展開すると言うのも自然な流れです。今回のプロジェクトは、NIH(アメリカ国立衛生研究所)の支援を通してニューヨーク市内のマウント・サイナイ病院と共に行なわれるものですが、どうしたら一緒に最高の形で協力できるか、病院のチームとはたくさん話し合い、一緒に試行錯誤しています」
Q:今後、どのようなアプリやサービスの展開を考えていますか?
「Noomはヘルスケア産業にもっともっと貢献できると考えています。食事と運動に気を遣うだけで健康改善に向かうことができるというのは素晴らしいことです。食事と運動のこの2つの要素が、健康上のさまざまな側面をとても強力に支えているのです。糖尿病や心臓病の予防、どれだけエネルギッシュでいられるか? 身体的な健康の改善から得られる精神的利益は言うまでもありません。とても大きな効果に成り得ます」
Q:この夏から日本での展開が始まりました。アメリカのように医療機関をはじめ、どのようなところとの提携が望ましいでしょうか?
「日本の企業、組織と提携する道はたくさんあると思います。米国のように医療機関もありうるでしょう。もっと広く言えば、食事とエクササイズを通して人々が健康的に生活できるようサポートすることに重きを置いているような企業や組織が持つ可能性に注目しています。そういう意味では、ヘルスケア、ダイエット、エクササイズ、ライフスタイル、ライフイベントなど、幅広い事業に関われるのではないでしょうか。今どこから始めるべきかを検討している最中です」
【プロフィール】セジュ・ジョン、Noom Inc. CEO
1980年韓国生まれ。韓国の田舎町で育ち、電子工学を学ぶためソウルのホンイク大学へ進学。19歳で自身初のビジネスとして音楽メディア界に参入。ロック、ジャズ、ニューエイジを専門にレコードレーベルを経営し、即座に韓国の音楽市場に名を馳せるようになる。大学中退後、2005年にニューヨークへと拠点を移し、経験ゼロ、人脈ゼロからネットワークを築いたのち、ブロードウェイミュージカル「バイ・バイ・バーディー (Bye Bye Birdie) 」のエクゼクティブ・プロデューサーとしてニューヨークに集まるトップタレントを発掘、マネージメントする。2006年にNoomのもうひとりのCEO、アーテム・ペタコフと出会い、世界中から優秀なエンジニアを集め、高い技術を誇るIT会社、Noomの経営へと乗り出す。
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