去る6月6~7日の2日間、ITヘルスケア学会主催による『ITヘルスケア学会 第9回年次学術大会&モバイルヘルスシンポジウム2015(合同開催)』が催されました。
テーマを「スマート&ウェアラブル化するITヘルスケアへの展望」と題し、情報工学や医療情報の活用に関わる研究者、企業担当者がスピーカーとして、企画公演セッションと学術大会が行なわれました。
mHealth Watchでは特集記事として、主に企画公演セッションのレポートを2回に渡ってお送りします(取材・文:小松智幸)。
※記事に一部誤りがあったため、修正いたしました(2015/6/11 22:00)
■基調講演『Apple社が目指す医療・ヘルスケアの再デザイン』
林 信行氏/ITジャーナリスト
基調講演では、日本一のApple通として知られるITジャーナリスト、林 信行氏が登壇(講演後もWWDC取材のため、サンフランシスコへ発たれていった)。
背景として海外、国内の医療現場でのスマートフォン、タブレット利用が浸透している実例を紹介しながら、デバイスとスマートフォンの連携がもたらす面白い変化は「Beyond Despley(画面の外)」で起きていることを指摘。
しかし、それぞれのデバイスで扱うデータには、専用アプリでの利用が前提でサービス
またがった扱いには制限があるほか、信頼性にも課題が残っている。
Appleの『HealthKit』は、異なるデバイスで取得したデータをiOS上で一元管理できるようにするフレームワーク。歩数に始まり、睡眠、心拍など、ユーザーの日常生活にまつわる多様な取得データを扱える。
データの信頼性については、取得データの「出所」を判断材料とし、その膨大な取得データをして「量は質を上回る」点を指摘。
過去に音声認識機能の精度が格段に進化した際、背景にはサンプルとなるデータの多さが要因となった経緯を挙げながら、ビッグデータとして価値を持ち始めた多様な取得データを積極的に活用することが信頼性も含めた大きなメリットを生む、とした。
一方、3月にリリースされた『ReserchKit』は、医療研究用にユーザーの取得データを提供可能にするオープンソースのフレームワーク。膨大な取得データを、生活習慣病や難病とされる疾病の治療法研究に活用できる(現在対象としている疾病はぜんそく、乳がん、パーキンソン病、糖尿病、心臓血管系疾患)。ただ、扱う国ごとのコンプライアンスやセキュリティー面などの課題があり、可能性の全貌が見えていない部分が多い点を挙げた。
林氏は、これらの膨大なデータを集約するAppleは、自らが医療ソリューションを提供するのではなく、色のついていない製品を提供し、扱う側にイノベーションを起こしてもらうスタンス、という見方。
ヘルスケアのより良い未来については、「テクノロジーを活用してなにを成し遂げるか」をポイントとして挙げ、「Technology First」ではなく「Technology After」の考え方、医療はBtoI(Business to Individual。個人一人ひとりに合わせたサービスを提供するビジネス形態)に向かうべき、と示した。
■講演:ITヘルスケア普及のための改正薬事法(医薬品・医療機器等法)と改正個人情報保護法~人を対象とする医学系研究に関する倫理指針の検討と求められる情報セキュリティ~
深津 博特任教授/愛知医科大学病院医療情報部
深津 博氏による情報セキュリティーに関する講演。
昨年11月に施行された改正薬事法と改正個人情報保護法について、医療分野でのサービス提供で留意すべきポイントや、医療現場でのITリテラシーについて報告された。
改正薬事法(医薬品・医療機器等法)では、ソフトウェア単体での認可が行なわれるようになった点を紹介。従来の薬事法では、医療機器を動作させるパソコン部分もセットで認可されていたため、ソフトウェアのアップデートでも新たな医療機器認定が必要になっていたことに対し、今後は医療診断アプリなども医療機器として登場してくる。医療現場での情報の取り扱いについては、情報漏洩のインパクト、ウイルス対策ツールの現状、過去に発生した事例(データやり取り用の私物USBメモリーを紛失)や、情報の取り扱い(業務に用いるパスワードを平文で扱っているケースが多い)などを紹介し、現場で多いITリテラシーの問題を挙げた。
今後、考慮すべき点としては、
・個人情報保護への配慮
「インフォームド・コンセント(正しい情報を得たうえでの合意」、「オプトアウト(受信拒否)」、匿名化などの対策。
・サイバーセキュリティーに関するシステム的な対策
ITリテラシーに関する啓発活動や脆弱性対策の確実な実施、ファームウェア等に固定パスワードにしないなどの対策。
などを挙げ、ITヘルスケア普及のための留意点を示した。
■パネルディスカッション:医療・ヘルスケア情報データ収集の先に見えてくること ~医療情報データは誰のものか? どう活用すべきか?~
宇宿功市郎教授/熊本大学医学部附属病院医療情報経営企画部
パネルディスカッションでは、本シンポジウムの大会長を務める宇宿功市郎氏をモデレーターに、林 信行氏、深津 博氏、スポルツ渡辺武友氏が登壇。医療情報データの活用についてディスカッションを行なった。これまでの講演でも、ポイントとなるのが「患者から収集した医療情報データの取り扱い」について。セキュリティー、活用方法、権利など、課題のある事柄について語られた。
・海外、国内の医療情報の扱いの違いについて
渡辺氏:アメリカでは、モバイルヘルスに関連するデータやコンテンツ、デバイスが機関や企業を横断的に利用されているのに対し、日本国内は縦割りの図式になり、それぞれが連携しづらい状況になっている。
深津氏:これには民間を対象にした欧米の医療制度と、厚生労働省が管理する日本の医療制度の違いが背景としてある。そのため、一概に比較できるものではないが、国内でも改善の動きは出てきている。
・デバイスからのデータ取得の継続に、インセンティブが必要か
林氏:ウェアラブルデバイスが出始めた頃に、身につけ始めたのは健康志向のユーザーではなく、ガジェット好きだった。一般の人でも、自分の行動が見えるだけでやる気(インセンティブ)になる部分はあるのではないか。
深津氏:現状は脈拍レベルの計測だが、センサーの進化で心電や血中酸素飽和度まで取れたりするようになると、医者にとってはありがたい。インセンティブにも活かせるのではないか。
宇宿氏:海外の事例で、例えば血糖値測定などは普及しているか?
林氏:アメリカで血糖値を取得するデバイスはリリースされている。普及率はどの程度かわからないが、盛り上がっているジャンル。
渡辺氏:情報の取得だけでなく、その先の活用が求められているのではないか。
・収集した情報の二次利用について
宇宿氏:情報の二次利用、Appleのスタンスは?
林氏:Appleは中立で情報を取得しないスタンスを表明していて、HealthKitでも情報を取らない仕組み。指紋認証等の情報も、端末本体内に保存するので、非常にセキュア。
深津氏:ただ、脱獄をすればハッキング可能なので、100%ではない。Appleは秘密主義だと思うので、自分が預けた個人情報が実際どうなっているのか説明は受けられない。ユーザーの利用意識で大きく変わるのではないか。また、来年1月に予定されている個人情報保護法改正が、今後の影響に大きく作用するだろう。
■ロボットが寄り添う近未来の健康社会
中山五輪男氏/ソフトバンクモバイル株式会社、坂田信裕教授/獨協医科大学、羽田卓生氏/アスラテック株式会社
シンポジウム1日目最後の講演は、ロボットとヘルスケアがテーマ。
ステージには、ソフトバンクの感情認識パーソナルロボット『Pepper』が登場し、ソフトバンクモバイル株式会社の中山五輪男氏が、プロジェクトの成り立ちからPepperのいる日常生活のイメージを紹介。また、今後のPepper市販や普及に向けた、およそのロードマップを示した。
次に登壇した坂田信裕氏は、ロボアプリコンテスト『Pepper App Challenge 2015』で、最優秀賞とベストソーシャルイノベーション賞を受賞した『ニンニン Pepper』の開発メンバーのひとり。高齢化社会の現在、老老介護から認認介護など、介護の状況が変わってくることを背景に、Pepperとのコミュニケーションで、認知症患者と家族をサポートする『ニンニン Pepper』の機能を紹介した。
最後はロボット制御ソフトウェア『V-Sido OS』をリリースする、アスラテックの羽田卓生氏が登壇。『CYBERDYNE』や『Big Dog』など、ロボットの歴史と開発進化の過程を紹介し、知能と機械をつなぐとするOS『V-Sido OS』の概要を紹介した。
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