2月18日、東京オペラシティにて、モバイルヘルス勉強会『モバイルヘルス成功のプロセス&エムティーアイのヘルスケアサービス』が催されました。株式会社スポルツの渡辺武友氏と株式会社ウィットの道江美貴子氏の進行でスタートした勉強会は、株式会社スポルツ、Visso株式会社、株式会社エムティーアイの3部構成。本記事では、当日のレポートをお送り致します。(取材・文:小松智幸)
■2016年のモバイルヘルス注目キーワード
オープニングはスポルツ渡辺氏が「CES 2016」で発表された注目デバイスとして、Fitbitの新モデル『Blaze』やカシオ計算機のスマートウォッチ『WSD-F10』をはじめ、全31製品を紹介した。また、モバイルヘルスサービスの最新動向として、スポーツアパレルによる人気アプリサービスの積極的な買収をピックアップ。Under Armourやアディダスに続き、先日のアシックスによる『Runkeeper』買収報道など、ブランドによるアプリアクティブユーザーの獲得戦略を取り上げた。最後は、mHealth Watchでインタビューを敢行したMount Sinai Health SystemのChikamoto氏が、ヘルスプロモーションに必要な「サービスの価値化」のために行なったアプローチ事例を紹介した。
■モバイルヘルスサービスの成功に必要な2つの手法
つづいて登壇したVissoの小室吉隆氏は、サービス成功に必要な要素として「仮説」と「観察」の2点を挙げ、それぞれの手法を紹介。
「仮説」では、顧客視点にフォーカスしたサービスの提供・改善していく有効な手法として、ユーザーの行動や思考、感情を図式化した「カスタマージャーニーマップ」の作り方を紹介した。サービスを提供するチームメンバー同士で、ユーザー視点から考えられる行動や感情をディスカッションし、時間軸で整理しながら1枚のマップに落とし込んでいく。マップ制作を通して、ディスカッションからメンバー同士の共通認識が生まれるほか、提供者視点では見落としがちな気づきが得られる等のメリットを挙げた。
「観察」では、ユーザー行動解析手法で特にアプリ面で有効な行動解析ツールとして『Repro』を紹介。ファネル分析による離脱要因の特定や、ユーザー操作の動画閲覧など、活用することでサービス改善に役立てられる機能を紹介した。
■モバイル・コンテンツ企業におけるヘルスケアサービスの課題と今後の展開について
株式会社エムティーアイ、ヘルスケア事業本部の秋田正倫氏が登壇し、同社が手がけてきたヘルスケア事業の取り組みを紹介した。
近年、ヘルスケア市場の拡大が予測されながら、実感として予測ほど伸びていない状況を振り返りながら、一方の人口変化は高い可能性で予測どおりに推移することを挙げ、問題となっている「少子化」、「高齢化」に対する取り組みを紹介。
ヘルスケア事業、最初の展開サービスである女性のための健康情報サイト『ルナルナ』は、2000年のサービス開始。現在は「少子化」に対するサービスとして位置づけている。開始当初は芳しくなかった会員数を増やすため、月額料金と退会動向に注目し、地道なマーケティングから会員獲得につなげる広告施策を実施、現在は利用者数900万人規模のサービスに成長した。また、サービス面では当初、避妊目的の若年層が主要ユーザーだった一方で、妊娠目的のユーザーに着目。利用記録のビッグデータを活用して、排卵日予測のロジックを開発。予測精度を上げながらサービスに反映し、機能面でのブラッシュアップを行なってきた。これらの取り組みを振り返り、『ルナルナ』のサービス成功のポイントを「ニーズをいち早くとらえた」点、「月額のストック型ビジネス」、「地道なマーケティング活動」の3点を挙げた。
また、現在はスマートフォン向けに無料で十分なサービスが増えているので、「有料の価値をどこに置くか」がカギではないか、と述べた。サービスから取得したデータの分析結果から新しいサービスに発展させる行為は、特にヘルスケアにおいては重要、と強調した。
次に、2013年にリリースしたウェアラブルデバイス『カラダフィット』を紹介。当時最小・最軽量クラス、通信にはNFC全盛の時代にBluetoothを採用してリリースしたものの、実際の販売数は伸びなかった。当時のウェアラブル黎明期、注目したのは健康感度の高いガジェット好きである一部のユーザーで、本来利用すべき層に届けられなかった点を振り返った。
最近は、BtoBで利用するユーザーが増えたことから、ターゲットユーザーの利用・継続傾向の有効性が見えてきたとし、「カンタンなものは続く」ということが、ウェアラブルを手がけた経験から得られたヒントとして挙げた。
2014年にリリースした遺伝子解析サービス『DearGene』を紹介。60~70万ヵ所の遺伝子解析を9,800円(サービス開始当初の価格)で提供できるサービスとして注目度が高く、初月の注文も多かったものの、次月以降の販売数には結びつかなかった点を振り返った。原因として、詳細解析に必要な追加購入のコスト感が敬遠された点を挙げ、現在はサービスを活用して注力している研究を紹介。『ルナルナ』の利用ユーザー10,000人を対象に遺伝子研究を行なうことで、本来であれば国家規模のプロジェクトを運営サービス同士で連携させることで可能にしている。国内最高レベルのアライアンスで取り組んでいるため、今後の展開について楽しみな可能性が生まれてきている、と述べた。
近年の成長サービスとして、『カラダメディカ』を紹介。24時間365日、医師や薬剤師、看護師などの医療専門家が電話やメールで相談に答える健康Q&Aサービスで、会員数は数十万規模。(※電話での相談は医師ではなく、医療従事者が行います。)幅広い分野の専門家による迅速で丁寧なサポートが好評で、ユーザー満足度の高いサービスになっている点、アプリ無料が主流の昨今でも、「人が介在して手間がかかるサービス」としてユーザーが認識してくれるとビジネスになる、という点を挙げた。
これまで手がけてきたサービスのポイントと経験を踏まえてリリースした『CARADA』を紹介。同社が「高齢化」に対する取り組みとして位置づけている。「将来にわたって健康でいる未来を提供するサービス」をテーマに、身体に関する7つのデータを一括管理しながら食事や運動、メンタルも含め、チームヘルスケアでサポートすることを目指している。
基本機能は無料で提供しながら、サービスの有料の価値の置き所として、管理栄養士がサポートする有料機能「MY栄養コーチ」を紹介。食事内容に応じた改善プランのほか、健診結果とリンクした提案や、ユーザーとのコミュニケーションに「コーチング」要素を取り入れている。
ここで、モバイルヘルスケアサービスの2大課題を「始める」、「続ける」こととして、特に「続けるためのきっかけ」に有効なコミュニケーション事例紹介のため、「MY栄養コーチ」担当・川端史紀氏に交代。
管理栄養士である川端氏は、ヘルスコーチングを軸としたオンライン完結型の健康支援サービス「MY栄養コーチ」の運用を通じて得た、コミュニケーション事例を紹介。サービスで健康に興味のないユーザーをやる気にさせるステップとして、「気づき」→「指導者への信頼」→「行動変容」→「体感」→「習慣化」という段階を示し、それぞれにアプローチのポイントを挙げた。
・「気づき」には、カウンセリング内容と記録傾向からの問題点の指摘方法
・「指導者への信頼」には、謎解き要素を加味したコミュニケーション
・「行動変容」には、できることにフォーカスした提案と鮮明なゴールイメージ、知識や気づきを得られるアプローチ
上記ポイントをふまえながらサポートしていくことで、ユーザーは無理せず取り組み続けることができ、その結果「体感」が得られ、満足度が高まり「習慣化」につながる、という流れを有効事例を交えて解説した。
最後に秋田氏は、ヘルスケアにおける潜在市場の広さを挙げ、業界内で協力し合いながら市場を大きくしていきたい、また、人間が健康になるためにその人をどう本気にさせるか、ということに対して今後も色々チャレンジしていきたい、としてスピーチを締めくくった。
※『カラダメディカ』は株式会社エムティーアイの子会社サービスとなります。
※CARADAおよび●ARADA(●には上に・・付のC)は、株式会社エムティーアイが使用権を有する商標です。
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