『Himss & Health 2.0 Japan2019』2日目、レポート3では毎年恒例の「ピッチコンテスト」の模様をお送りします。(取材:小松智幸)
■ピッチコンテスト
審査員:
岡崎昌雄氏(ファイザー株式会社)
梅澤高明氏(A.T.カーニー日本法人/CIC Japan)
宮田拓弥氏(Scrum Ventures)
小柴巌和氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)
坪田一男氏(慶應義塾大学)
鈴木蘭美氏(ヤンセンファーマ株式会社)
石見 陽氏(メドピア株式会社)
Matthew Holt氏(Health2.0)
ファイナリスト:
小東茂夫氏(エニシア株式会社)
佐藤友美氏(アクシオンリサーチ株式会社)
伊藤由起子氏(株式会社ゼスト)
下川 穣氏(株式会社KINS)
伊藤俊一郎氏(株式会社AGREE)
Tamaryn Hankinson氏(The Clinician)
『Himss & Health 2.0 Japan2019』、最後のプログラムとなるピッチコンテストは、
テーマとなる、ゆりかごから墓場まで「人のより良く生きる」を支える次世代サービスをサポートする目的で行なわれています。
今年は75社のエントリーから、ファイナリストとして6社が選ばれました。最優秀賞(1社)には、賞金100万円と来年9月に米国で開催される『Health 2.0 Annual Fall Conference』のペアチケットを用意。企業賞としてアフラック生命保険株式会社提供の「アフラック賞」を設定しています。また、各プレゼン終了後にスポンサーである日本生命保険相互会社、アフラック生命保険株式会社、日本調剤株式会社による判定を行ない、支援したいプレゼンサービスであればフラッグを上げる、というフラッグジャッジも追加されました。
コンテストは、ファイナリスト各社が5分のプレゼン、審査員が10分質問する流れで行なわれました。今回は6社のプレゼン内容をレポートします。
『SATOMI』/小東茂夫氏
カルテ要約支援ソフトウェア『SATOMI』
医師が診察前に読み込んでいるカルテは、目次のない本のようなもの。カルテに書かれた患者の経過を医療上重要なところに絞って要約できると効率的に追えるようになる。医師の長時間労働の大きな原因は、患者の対応ではなく、書類作成に時間を取られていること。それを『SATOMI』で解決できると考えている。
電子カルテの問題がある。データとしてストレージされているものの、人は読みづらく、機械で読むにはきれいじゃないので読み取れないという、非常にもったいないことになっている。『SATOMI』は、カルテ原文から自動的に要約を生成し、医師に提案。医師はかんたんな確認とフィードバックを行ない、きれいなデータをストレージしていく。
要約からこの検査抜けてませんか? とか、他の方のやり方からいくとこういうことやってるんだと思いますけどどうですか? みたいな提案ができる。人と機械が協調することで、AIが自然な形でお医者さんを支える、そういう世界を作りたいと思っている。
『ZEST』/伊藤由紀子氏
『ZEST』は訪問看護の売り上げを2倍にするBtoBサービス。ステーションの看護師は、1日3~5件の高齢者の自宅を訪問するが、移動に長い時間を費やしていて、そこでは1円も稼げていない。ZESTは、看護師の複雑なスケジュール作成を自動化する。その日の案件と各看護師の場所をシミュレーションし、移動時間を加味した最適化したスケジュールを作成。いままで1日分のスケジュールを作るのに2時間かかっていたのを、5分で済ませられる。看護師の移動時間を最適化したので稼働時間が上がり、超過勤務もなくなったうえ、売り上げも2倍になった。
ZESTは月額従量課金で訪問時間1時間につき、100円を訪問看護ステーションからもらっている。つまり、日本だけで1,300億円以上の市場となる。口コミだけで、現在は毎週2社の新規顧客を獲得している。
自宅に帰りたい約80%の患者が、人手不足が原因で病院で亡くなられている。皆、最後の時を自宅で家族に囲まれて過ごせるようにしたい。
→フラッグジャッジでは日本生命、アフラック生命保険が支援意思を表明。
『ハイブリッド型AIエンジンを用いたミリオン解析、疾病リスク予測推定サービス』/佐藤友美氏
日本には優秀な病院、医師がいて、世界から見ても病気を治療する技術はトップレベル。我々は病気になってから取り組むのではなくて、予防医療に具体的に有効な手段を提供したい。
例えば、膵臓がんで亡くなっている人は統計的に家系にそういう人がいると非常にリスクが上がる。一方、双子のDNAで膵臓疾患の欠陥を持っている人で、同じDNAでも、必らず膵臓がんになるわけではない。片方はなって片方はならない。それをどうやって特定できるのか、がチャレンジになる。
我々は、ビッグデータ解析に適用可能な「AXiR Engine」を使って、特定の疾患の未病状態=疾患リスクを予測推定する。日本は毎年101万人ががんを患っていて、そのうち37万人が亡くなっている。
患者がどのくらい重篤なのか、リスクがあるのか、ヒートマップで赤が疾患リスクがある、青が健康状態などで表現。ヒートマップで見ていけば、単なるピンポイントの判断よりも正常なんだけど危ない、というようなことが事前にわかる。
今後は技術的に特許を取り、2系統のエンジンでヒートマップを作って、精度を上げていこうとしている。
『KINS BOX』/下川 穣氏
医療先進国であるはずの日本でも、アレルギー、過敏性腸症候群、糖尿病など、多くの疾患に悩んでいる方がたくさんいる。ここに対するソリューションが「菌」であると確信している。腸内細菌のバランスが皮膚の症状、疾患に関与しているとところに注目し、サービスを設計した。特に「美」に対する分野がニーズが高いと思うため、皮膚からスタートしている。
『KINS BOX』は、検査キット、サプリメント、コンシェルジュの3機能からなるサブスクリプションサービス。自分のクリニック経験から、行動変容を起こす3つの重要なポイントを備えたもの。
ひとつ目のファクターは「見える化」。検査キットはパッチテストのような形で、貼るだけで皮膚の細菌数、どんな菌がいるかということがわかる。
続いて「体感」。良いサービスでも変わったことが感じられなければ続けられないので、体感を得やすいサプリメントを処方していて、2週間以内に「体感あり」と答えた割合は80%という数字が出ている。サプリメントは20種類の乳酸菌、乳酸菌生産物質、酵母菌という3つの成分が入っている。
最後が「不安払拭」。LINEでコンシェルジュが対応し、論文を引用しながら丁寧に回答するというところが好評を得ている。コンシェルジュは、92.6%という高い利用率を出している。
まず最初はサブスクリプションサービスからスタートし、EC、マーケットプレイス、そして菌ケア専門クリニックと、いう事でニーズを満たしていきたい。
『LIBER』/伊藤俊一郎氏
心臓外科医として10年現場に立ち、さらには在宅医療専門のクリニックを作って5年、臨床の現場に立っている。長時間の待ち時間、医師の過重労働、増え続ける医療費…経験から日本の医療が崩壊寸前に危機感を持っている。
この問題を解決することは医療機関だけでは不可能。2年前に日本初のサイバーホスピタル『LEBER』を開発した。このサービスで素晴らしい日本の国民皆保険制度を持続可能な形でアップデートできると確信している。
体調不良の場合は、スマートフォンからチャットボットが医師や看護師の代わりに問診を行ない、デジタルの問診票が送られる。問診票送信から、最速1分で医師から疑われる病気の名前、どうしたらいいかアドバイスが届く仕組み。さらに特徴的なところは、医師が症状に合った市販薬を3つまで選択してユーザーにお勧めする。症状に合った医療機関もマップで表示する。
なぜ1分で医師から返ってくるのか。ドクターは専用アプリケーションで問診表を読み、システムからサジェストされる疑わしき病名を選ぶだけで回答を作ることが可能。回答までの時間は、現在3,000件の質問に対して平均5分。30分以内の回答が83%と、非常にスピーディーに回答を返すことに成功している。さらに116名の様々な専門医が全診療科をカバーしているため、まさにサイバーホスピタルを実現している。
このサービスを法人、さらには自治体に契約していただき、エンドユーザーには無料で使ってもらうビジネスモデルを採用している。2月からはコンシューマー向けのサブスクリプションモデルも用意し、法人向けのサービスは年間366%の成長率となっている。
→フラッグジャッジでは日本生命、日本調剤が支援意思を表明。
『価値に基づく医療を支援するAIプラットフォーム ZEDOC』/Tamaryn Hankinson氏
世界は高齢化して健康状態も低下している。結果として医療費は高騰し、日本では2025年に44兆円の赤字が予想されている。
深刻な事態を背景に、医療エコシステム全体が低コストでより良い医療結果の提供にフォーカスされるようになった。それが「価値ベースの医療」で、量ではなく価値を提供するためのインセンティブが重要になっている。
ほとんどの医療制度におけるアウトカムデータは、紙ベースの調査ツール、デジタル書式が使われている。手作業が多く、不効率であるばかりでなくコストがかかり、医療チームがデータを受け取った時にはもう行動を起こせない、あるいは治療に効果的に使えなくなっている状態。
日常医療の一環としてアウトカムデータを収集する際、今までのプロセスでは価値ベースのモデルを導入することは不可能。『ZEDOC』は、データ主導型ソリューションで、他の病院情報システムと統合することで、エンドツーエンドでデータ収集を自動化できる。1000以上の質問票からなるライブラリで、自動スケジュールを患者の携帯に送信する。コンテンツは多言語対応、データサイエンスと機械学習を駆使して、病院外からのデータを優れたレスポンスレートで入れられる。
出発点はシンガポール、次にオーストラリアで提供中で、イスラエルではまもなく本番運用、ニュージーランドでは来年7月から提供予定。4つの市場で勢いを増している。
以上が6社のプレゼン概要で、活動領域、ビジネス分野、成長ビジョンなど、どれもがテーマである「より良く生きる」に貢献しそうな次世代サービスに感じられました。20分の審査時間の後、最優秀賞を勝ち取ったのは、伊藤氏プレゼンの『ZEST』。さらにアフラック賞も同じく『ZEST』で、ダブル受賞を獲得。最後のプログラムということもあり、成大な拍手のなか、ピッチコンテストと『HIMSS & Health 2.0 Japan 2019』は幕を閉じました。
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