『ITヘルスケア学会 第9回年次学術大会&モバイルヘルスシンポジウム2015(合同開催)』企画公演セッションの2日目は、ITヘルスケア分野でサービスを展開する企業の講演が行なわれました。今回はその模様をお送りいたします。(取材・文:小松智幸)
「ウェアラブル&IoTの先にある健康社会の展望」~第二章~
■『先行する海外のモバイルヘルス事例』
渡辺武友/株式会社スポルツ
mHealth Watch編集部の渡辺武友が登壇。米国と日本のmHealthを取り巻く状況を紹介しながら、先行する海外のサービス事例を挙げていく。ヘルスケアビジネスでは世界最大のダイエットセンターを運営する『WeightWatchers』を例に、新しい価値を創造し、メソッド(新習慣)を継続させるために商品やサービスを販売するビジネスモデルを紹介。
ウェアラブルデバイスでは、世界シェア67%を占める『Fitbit』や、デバイスとサービス連携にまつわるトレンドの移り変わりなどを紹介した。今後のビジネスの成功については、特に重要なキーワードを「継続支援」として、取得データを活かして新しい価値を創造すること、メソッド(新習慣)を継続させるための必要性を挙げた。
■『App Storeヘルスケア1位獲得! あすけんで見るヘルスケアアプリ事業の成長戦略』
天辰次郎氏/株式会社ウィット
食事記録型ヘルスケアサービス『あすけん』を運営する株式会社ウィット、天辰次郎氏が登壇。
『あすけん』は、日々の食事内容を記録し、栄養士による自動アドバイスを受けながら食事管理を行なうヘルスケアサービス。現在、月間UU70万ユーザーの『あすけん』が、アプリマーケットでカテゴリー1位を獲得するまでの成長戦略を紹介した。
サービスの主な集客経路をリアル&ネットの口コミとして、広告に頼らないマーケティング手法や、サービス継続の施策として、ユーザーの欲求を満たす快感ポイントの設置やコミュニケーション機能の改善などを挙げた。
また、サービスの今後の予定として、ソニーとの提携により準備中の食事写真の自動解析機能や、データ共有APIの提供などを紹介し、さらなる機能強化要素をアピールした。
■『ひとりじゃないから続けられる~ヘルスコーチがファシリテートするラーニングコミュニティー~Karada Managerの新しい取り組み』
秋元直樹/ネオス株式会社
mHealth Watch共同運営会社のネオス、ヘルスケアサービス部の秋元直樹が登壇。同社運営の『Karada Manager』が抱える課題と、解決のための取り組みについて紹介した。
ここでも課題として挙げられたのが「継続利用」と「マネタイズ」について。ユーザーひとりの世界では行動を起こし、続けることが難しい点、リアルが絡まないサービスには対価が支払われにくい点を挙げ、「アプリとリアルの連携」を目指すことに至った経緯を説明した。
具体的な取り組みとして、従来の専門知識を片方向で指導するスタイルに対し、双方向のコミュニケーションから行動変容を支援する「ヘルスコーチ」と、SNSのグループ機能を活用した「ラーニングコミュニティー」を用意。ユーザー参加による実証実験を行なった。実験結果は参加者32名に対して完走者16名、平均増減体重マイナス2.2kg、減量率96.4%。ラーニングコミュニティーを通じて、87.5%が「自分なりのやりかたを見つけられた」、62.5%が「コミュニティー終了後も自分ひとりで続けられる」などの回答結果を紹介した。現在、コミュニティーの必要性有りとして、企業スポンサードによる実証実験も準備している。
■『学習するシステムIBM Watsonの医療・ヘルスケア分野への応用と今後の展望』
元木 剛/日本アイ・ビー・エム株式会社
企業セッションの最後は、日本アイ・ビー・エム株式会社の元木 剛氏が登壇。システムが自ら学習し、膨大なデータから情報を収集・分析する「コグニティブ・コンピューティング」と質問応答システム『Watson』の医療・ヘルスケア分野への応用について講演した。
人工知能を搭載したスーパーコンピューター『Watson』は、2011年にアメリカのクイズ番組に出場してチャンピオンと対戦し、勝利。正解率90%を達成した事例や、膨大なレシピデータから未知のレシピを提案する『Chef Watson』などの事例を紹介。
『Watson』の応用範囲としてコールセンターや営業支援などの顧客対応サポート、医学エビデンスや文献からの創造的発見、規約や法律など分析を経て保険適用審査や納税手続きの自動化など、高度な判断支援などを挙げた。
医療・健康分野では、『IBM Watson Health』をApple、Johnson&Johnson、Medtronic等と協同で設立。Watsonを活用したオープンなヘルスケアクラウド『Watson Health Cloud』を構築し、ユーザーデータの解析サービスを開発・提供する取り組みを紹介した。
■『集合知、ビッグデータ、Health 2.0~医師7万人のサイト運営経験から見るITとヘルスケアの未来~』
石見 陽氏/メドピア株式会社
特別企画セッションでは、メドピア株式会社の石見 陽氏が登壇(日本テレビ系列『世界一受けたい授業』に講師としても出演されている)。同社の運営する『MedPeer』は、全国の医師の4人にひとりが参加する医療関係者専門のSNSサービス。
現役医師である石見氏の経験から、医師同士による診療科、地域、時間を超えた意見交換の場所が必須、というサービス立ち上げの経緯を紹介。
処方事例を共有する薬剤評価掲示板や症例相談、会員同士で意見交換を行なうディスカッション、多様なテーマでアンケートを実施するポスティング調査機能など、会員77,000ユーザーが利用する国内唯一の「医師目線」の機能を紹介した。
■『医療・ヘルスケアデータの集積と提供にITヘルスケア学会が今後果たす役割』
水島 洋氏/国立保険医療科学院研究情報支援研究センター
最後のセッションはITヘルスケア学会の代表理事を務める、水島 洋氏が登壇。近年の健康の個人化、また収集したヘルスケアデータの扱いについて講演を行なった。
自身も筋金入りのウェアラブルデバイスマニア(装着する腕に空きがないほど、デバイスを所持)という水島氏は、海外ウェアラブルデバイスから取得した個人データを例に、その課題を提示。
日本国内でのITを介した個人データの課題として、メールや検索、SNS等の個人情報は、海外の企業に吸い取られていて、たとえ個人情報保護法があっても、その企業内ではどのように扱われているか不明な点、そもそも海外では日本の法律が適用できない点などを挙げた。
これに対し、今年任意団体から一般社団法人化したITヘルスケア学会の役割として、
・活動量計、モバイル機器の情報基盤
・企業グループに依存しないデータ収集
・倫理委員会による管理
・データに関するガイドラインの策定
・オープンデータとしての提供
・データを利用した研究活動の推進
・データを財産とした財団との連携
などを挙げ、医療・健康分野の発展のために活動していく方針を発表した。
なお、続けて行なわれた閉会式では、来年の学会を東京で開催する発表が行なわれ、『ITヘルスケア学会 第9回年次学術大会&モバイルヘルスシンポジウム2015(合同開催)』は好評のうちに閉幕した。
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