12月9~10日の2日間、日本橋三井ホール(東京都中央区)にて『Himss & Health 2.0 Japan2019』が開催されました。
今回はHimssとHealth 2.0の同時開催となり、会場も3箇所で同時開催されることとなりました。
予防から医療現場、女性の健康にスポットを当てるなど幅広いテーマをラインナップして、国内外のイノベーターが多数参加しました。
mHealth Watchでは2日目に取材しました。気になったセッションをレポートします。(取材:渡辺武友)
■健康経営を斬る!
パネリスト:
山本雄士氏(株式会社ミナケア)
大室正志氏(医療法人同友会)
安田雅彦氏(株式会社ラッシュジャパン)
産業医の大室正志氏(以下:大室)がモデレートする形で、健康経営を導入する企業を支援する内科医でありミナケア代表取締役の山本雄士氏(以下:山本)、ラッシュジャパンの人事部長として健康経営を行う安田雅彦氏(以下:安田)により、現在の健康経営について議論されましたので、その模様をレポートします。
<健康経営とは?>
大室:健康経営が登場したのは、ロバート・ローゼン博士が発表した「ヘルシーカンパニー」(92年)が元になると言われている。それが日本にも入ってきた。
ただし当時は大企業が行う福利厚生の延長線上にあるようなイメージだった。
その後リーマンショックの影響もあり、しばらく健康経営を言うことがなくなってきていたが、2012年あたりから健康経営が取り上げられるようになり、現在は大企業に関わらず取り組まれるようになってきた。
<ここ数年で健康経営にニーズの変化はあるか?>
山本:現在は優秀な人材の獲得が難しくなってきている。優秀な人材の獲得、そして力を発揮してもらい、さらに早期退職させたくない。と考えている。
人的資本を確保するための投資として健康経営を考えている経営者が増えてきた。
一方で「なんで会社がそこまでやるんだ?」と思う会社もまだまだ多い。
このような格差の広がりを感じる。
大室:今は就職活動をする新卒者が健康管理について聞くようになってきた。こんなことは、今までではあり得なかった。
自分の身は自分で守らないといけないと考える20代が増えてきた印象を受ける。
安田:健康経営はリスクマネジメントの観点もある。最近はエンゲージメントが注力されている。
従業員がエンゲージしている状態とは、心身ともに健康であると言える。
従業員が健康であることで、ビジネスはドライヴしていくと考えるようになった。
<企業の社風による差>
山本:社内で健康経営の担当を募集すると、倍率が5倍もあるところがある一方、全く興味を示さない企業もあり、後者の方が圧倒的に多い。
経営トップがこれからは健康経営が重要と考えたとしても、実際の現場が動かず、それを見た経営者の気持ちが折れてしまうことがある。
健康経営によって業績を上げるとの考え方もあるが、それだけではない。
例えば、保険料は企業と従業員が半分ずつ負担し合っている。この保険料は自分がどんなに健康に気を使っていても、同じ社内の不健康者が病気になれば、その分も負担することなるため、保険料が下がることがない。
従業員の医療費負担が減れば保険料を抑えることができるようになる。この数字を利益と考えれば、目標が達成してしまうほどのインパクトがある。
<アメリカにおける健康経営>
山本:アメリカは一時期、年金と医療費で会社が潰れてしまう時代があった。医療費を抑える手段として行われたのが「病院に行きにくくしよう」だった。そんな対処療法的なことをしていたときもあった。
今は「病院に行かなくても済むようにしよう」に変わってきた。
一人でも重病人が出ると皆で負担しなければならなくなるので、従業員の家族含め疾病リスクを把握すると言ったリスクマネジメントが行われるようになった。
日本の健康経営の現状としては、従業員の健康、もう少し広げてもその家族の範囲までになる。
アメリカをはじめグローバルな企業が行う健康経営は、取引先まで含めて考えていたり、事業におけるオペレーションも含めて健康にコミットしているか?というように環境も踏まえた取り組みに変わってきている。
例えばボルボが唱えている「自分たちのプロダクトで死亡事故を出さないようにする」とのコミットメントもボルボにおける健康経営と言える。
<健康経営はテストに受かるための手段ではない>
大室:どのような取り組みでも指標があれば動きやすい。健康経営も科目にすれば誰でもやりやすいが、そうなるとテストに受かる(認定をとる)ための手段になってしまう。
安田:指標化するとわかりやすくはなるが、例えば平均で5ポイント上がっても、成績の悪い事業所が2つ3つあっては意味がない。
ラッシュでは通常行われるような目標管理はない。ラッシュでは360°評価を取り入れている。共に働く人に評価され、それを総合的に上司が評価する。横との人間関係を重視する。
会社のポリシーとして「ヘルシー&ハッピー」を掲げて大事にしている。それは健康であることがお客様に価値を届けられると考えている。我々には健康管理などは似合わない。
<日本の企業特有の「社員は家族」は減ってくるとどうなるか?>
山本:雇用が流動すると、保険の仕組みが問題になる。すぐに辞めてしまうと保険が積み上がらない。
これからは、入社したら「すぐにパフォーマンスを出せ」「いる間はパフォーマンスを出せ」となると、健康経営と言っていられなくなってしまうと思う。
大室:本来、生活習慣に由来する血圧やコレストロール値を下げましょう。と言うものは20~30年後の脳卒中や心血管に影響を与えるもののため、終身雇用が前提でないと必要とされない側面もある。一概に他で言われていることをやるのではなく、会社の文化など踏まえた上で、自社の健康経営のあり方を考えていかなければならない。
また、会社のレベル(健康への理解度等)でやれることは変わる。従業員の健康リテラシーが低い状態で、効果的だからと高度なことを導入しても意味がない。
現状に合わせたアプローチが必要になるが、人材の流動性が高まってくると、その点も考慮に入れた施策を考えていく必要が出てくる。
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