『Himss & Health 2.0 Japan2019』2日目、レポート2では「遠隔医療はどこへ向かうか」セッションの模様をお送りします。(取材:小松智幸)
■遠隔医療はどこへ向かうか
モデレーター:
宮田俊男氏(株式会社Medical Compass)
パネリスト:
大石怜史氏(ソフトバンク株式会社)
デモ:
伊藤俊一郎氏(株式会社AGREE)
園田 愛氏(株式会社インテグリティ・ヘルスケア)
原 聖吾氏(株式会社 MICIN)
セッションテーマは「遠隔医療はどこへ向かうか」。宮田俊男氏の司会のもと、遠隔医療の最前線にいる登壇者によるサービスデモ、業界のトレンドや課題について、ディスカッションが行なわれました。
大石怜史氏(ソフトバンク株式会社)
ソフトバンクは携帯電話の会社と思われがちだが、社内ではその時代は終わったと言われている。今後5Gが入ってくる時に、5Gを活用してなにができるのかにフォーカスし、行動を起こしている。
課題に感じているのは、月150時間を超えると言われる医療従事者の残業時間。また、国民健康保険がすでに40兆円を超えていて、20年後には70兆円を超えるとされているなか、その負担を次の世代に負わせないように色々取り組んでいる。
ソフトバンクは、スマートフォンユーザーを数千万人抱えているため、シームレスに使えるアプリケーションを提供していきたい。健康時でも疾病時でも、なにかしらの懸念や悩みがあればアプリに入力し、それに対して即応するサービスを展開しようと思っている。サービスは医療従事者を抱え、信憑性を担保し、オンラインだけでは解決しないことには病院につなげる。株式会社としては、オンライン診療、診療行為はできないが、クリニックや病院と一緒に、プラットフォーム自体を提供してサポートするようなことを考えている。ソフトバンク自体では、トヨタとの合弁会社MONET Technologies株式会社で、医療機器を搭載した車両を使った半遠隔診療のような実証事業を行なっている。
<サービスデモ>
原 聖吾氏(株式会社 MICIN)
2016年からオンライン診療サービス「curon」を提供している。これまでのオンライン診療は慢性疾患の治療、糖尿病や高血圧症など、継続的な治療が必要な疾患で使われることが多かった。
仕事をしながら治療を続ける「両立支援」を活用する中部労災病院での取り組みを紹介。ドクターと患者、患者が所属する企業とのやり取りから、病状のポイント共有や出張や業務内容とのバランス相談などを行なう。医師と患者のコミュニケーションだけではなく、患者を支える関係者と連携しながらの治療を実践している。
園田 愛氏(株式会社インテグリティ・ヘルスケア)
オンライン疾患管理システム「YaDoc」は、適切な人に、適切なタイミングで、適切な介入をできるプロダクト。
COPDを例に、患者の症状が息苦しさなのか、咳が出たのか確認をして、ちょっと増悪傾向の場合は、コミュニケーションボックスからメッセージ送信、またはビデオ診療を実施してコミュニケーションを取る。例はCOPDだが、循環器、免疫系、中枢系など、患者の主訴であるPRO(ペイシェント・レポーティッド・アウトカム)を受けての治療方針決定や処方コントロールを疾患ごとにプログラムしている。
現在、2100の医療施設に導入され、成果を上げ始めてきている。
伊藤俊一郎氏(株式会社AGREE)
オンライン診療ではなく、チャットをメインとした医療相談サービス「LEBER」。
患者が現在の症状や部位を入力してチャットボットが問診を実施、看護師や医師が行なう問診をロボットが行なう。患者側は10問前後の問診に回答すれば問診結果が医師側に送られる。医師側は、デジタルの問診票を確認し、サジェストされた病名から疑わしい疾患を選択、該当する診療科も自動で表示される。医療機関自体に行く必要があるかも選択でき、疑われる疾患、アドバイスを送信する。
患者側は受け取ったアドバイスをもとに、近くの医療機関に行ったり、対応を行なう。医師に対しては、その都度評価を行なえるため、医師の質も担保できるようになっている。
<ディスカッション>
宮田 日本の遠隔医療は制度面による課題がある。薬機法改正も成立、診療報酬改定も来年行なわれる。遠隔医療にまつわる制度のどのあたりを緩和すべきなのか、それぞれがどの領域を大事に捉え、今後どのようにチャレンジしていきたいのかをお伺いしたい。
大石 例えば深夜帯、子供になにかしらの症状があった場合に、病院に行ったほうが良いか無償でトリアージする「#8000(子供医療相談事業)」というサービスがあるが、認知度はあまりない実感がある。子を持つ親がそういった不安を解消する術が手元にあまりないと感じていて、メディカルと患者をシームレスにつなげるのが我々の役割だと思っている。
原 我々が行なっているオンライン診療では、指摘されているとおり制度上の成約が大きい領域で、ビジネス的に進みが遅い。
働く世代、子育て世帯が必要としている領域が、政策的にインパクトを持つ領域だと思うので、あるべき未来に向けて政策を含めて変えていくのが重要な取り組みだと思っている。
園田 オンライン診療が制度化され、当時のガイドラインにはオンライン診療の基本理念が3つ書かれていた。ひとつ目が「患者さんの日常生活の把握による医療の質の向上」、ふたつ目が「アクセシビリティの向上」、3つ目が「患者さんの治療への参画によるアウトカムの向上」。我々は術後の身体管理や様々な局面で、患者の生活と医療がシームレスにつながっていく、あるいは患者一人ひとりを理解した医療を、オンライン診療の先にあるビジョンとして追及していきたい。
伊藤 自分のいた心臓外科は、勤務量がハードな現場だった。高齢者が長期入院できない状況から在宅医療を始めてみたら、在宅でも意外と治療できることを実感した。そこでスマートフォンを使ったケアを着想したのが「LEBER」のスタートだった。
自分は今も医師会に所属していて、休日当番の日は地方の病院で診ている。そこに訪れる患者さんの90%が、アドバイスと市販薬でなんとかなってしまう、という現実があった。制度面では、医師が市販薬を勧めるのがグレイゾーンではないかと言われていたが、オンライン診療のガイドラインにも市販薬推奨が言及されている。少しずつ制度・時代が追いついてきいる実感がある。
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