2020年9月12日(土)~13日(日)の2日間、ウェビナーにて『Mobile Health Symposium 2020』が開催されました。
今回のテーマは「医療・ヘルスケアICTの社会実装に向けた最新動向と課題」とし、COVID-19による時限的取り扱いで一部緩和された「オンライン診療」の今と今後を、国や地方自治体の政策や取組、医療の現場、それを支えるベンダーの取組がどのようなものか、最新動向が紹介されました。
レポート【1日目-1】では、COVID-19における政府の対応、これからさらなるデジタル化が望まれる医療における今後の政策について紹介します。(取材:渡辺武友)
主催: ITヘルスケア学会 移動体通信端末の医療応用に関する分科会
後援: 一般財団法人情報法制研究所、一般社団法人ブロードバンド推進協議会
1「デジタル・ニッポン 2020 における医療関連政策の方向性」
平井卓也氏(衆議院議員/前 IT・科学技術担当大臣/自民党デジタル社会推進特別委員長 ※講演後、デジタル改革担当大臣を就任)
現在、デジタル庁として関心が高まっている。どういうスコープを持って組織を作られるのかはまだ決まっていないが、デジタルニッポン、政府の骨太の方針、成長戦略などを見ていただけばおおよその形はイメージできる。デジタル庁は、単に行政分野の電子化を進めるというものではなく、社会全体のデジタルトランスフォーメーション(以下DX)をすすめる。
教育と医療が重点分野となる。その後インフラ、民間DXを進める。デジタル庁は医療分野のIT化の司令塔的存在になると思われる。
骨太の方針、経済財政改革の基本方針を見ていくと、デジタルの認識がありとあらゆる分野で高まっている。これらを取りまとめるためデジタル庁の創設は自然な流れとなった。
ただ新しい庁を作りそこに権限を与え、実際に成果を上げていくのは大変だと思っている。実現のために法律の改正などをしなければいけない。
デジタル・ニッポンとは、私、平井が委員長を務めている自民党デジタル社会推進委員会がe-Japan特命委員会として2001年にスタートした。
IT基本法の施行は麻生氏が初代委員長を行っていた。私は2000年当選で最初からe-Japan特命委員会の事務局的な仕事をしていた。
それまでにITの分野で仕事をしていたし会社を経営していたこともあり、20年に渡り携わってきた。
デジタル・ニッポンが登場したのは野党時代の2010年。民間のヒアリングを中心に政策を作る手法はこの野党のときに作ったものである。このやり方によって最先端の考え方に触れて、政策を常にバージョンアップできた。
毎年出しているデジタルニッポンは、政府の取組みを半年~1年先に検討して提言を作っている。IoT、マイナンバー、データ立国などインクルーシブなデジタル社会というものも、今見ても古い感じはしない。
この委員会は議員立法の中心にあった。2014年サイバーセキュリティー基本法、国会議員による議員立法、2016年官民データ活用推進基本法も中心となり進めてきた。
約20年を経たIT基本法を見直して新たなデジタル推進法を作る。来年の通常国会に作ろうというのが委員会の提案。菅官房長官(当時)が言っているデジタル庁を作るためにはIT基本法の見直しとセットでなければ物事は進まないと考えている。新たなデジタル推進の立法、マイナンバー法の改正、個人情報の保護法の改正などを進めていく。
COVID-19を受け、今回こそ本当にデジタル化を進めないと日本のデジタル化は掛け声倒れになる。デジタル化を今まで進めてきたのに、国民に対して、利便性の向上、メリット、安全安心など、デジタル化の恩恵がなかった。基本的に立脚して作っているのが「デジタルニッポン2020」である。
40年前に大平総理が考えたサスティナブルな社会はまさに現在のSDGsである。人間中心のデジタル社会はあくまで人間の幸せを追求するものであると基本的な考え方を整理し「デジタル田園都市国家」を目指す。2030年頃までに主要な国家戦略にすべきであると考えている。
COVID-19を受け、都市部集中の脆弱性が露呈した。今後は地方への分散、QOLを高める政策が生産性アップとなり日本の成長につながる。
医療分野においては、「オンライン診療」が法律的に認められたが、実態は進んで来なかった。医療機関がCOVID-19によって経営的ピンチになっている。まずはここを何とかする。
「オンライン診療」「オンライン服薬指導」「遠隔健康医療相談」など、厚生労働省が定義を進めたが、実際の現場では大きく進んでいくだろう。
診療報酬の見直しを「Pay for Service」から「Pay for Value」へ変えることが出来たら、色々なものを組み立て直すことができるのではないか。
オンラインでやるも、直接やるも、医師が対応するも決めるのは医師である。サプライサイドの議論だけしていても世の中にマッチングしない。
データを使えと医療の世界では議論されていて、データヘルスの委員会・調査会などもあるが、あまりにも複雑にすると面倒になる。本来あるべきデジタルの姿は何なのかで考えるべき。物事はシンプルにできることからやるべきである。
今はすべてのデータをきれいに繋がこうとし過ぎている。サグラダファミリアを作るようなことをしてはいけない。
事例として、高松市は国民健康保険のレセプトデータをクレンジングして患者データを整理した。医療診断ツールとして患者同意を得た場合は医師が見ることができる。2年続けて評判がよかった。
今回COVID-19で、重症化する人とそうでない人は、過去のレセプトデータを見ることでわかるようになってきた。このような活用のためにも、今後は香川県全体で医療関連者が使えるようにする。
難しいことを進めても進まない。患者が一番喜ぶもの、医療機関が扱いやすいものから進めていく。
どうやって作るかを考えて診療報酬等見直していく。このような問題は、厚生労働省、デジタル庁(推進庁)が中心で進めることになる。
2「COVID-19 におけるオンライン診療を含めた我が国の対応策」
鈴木康裕氏(前・厚生労働省 医務技監)
今年1月半ばから7か月間ほど厚生労働省にてCOVID-19の対応をしてきた。改めて当時の動向を整理していく。「オンライン診療」はCOVID-19により広がった。厚生労働省で実施したアンケート結果から、7割の人が病院に行くのが不安と答え、レセプト件数は減り続け、5月が最も減った(緊急事態宣言の関係)。
4月10日より、以前は原則できなかった初診から「オンライン診療」が可能となった。向精神薬の処方はできないなど留意点はある。
今までは「オンライン診療」があったときのみ行っていた「オンライン服薬指導」が、対面診療を受診した場合もオンラインで行うことが可能となった。調剤薬局の業務フローに大きな影響があると思われるので、特に門前薬局というビジネスモデルはかなり変わっていくだろう。
診療報酬は、初診料などで算定点数を増やし、管理料を引き上げた(初診料として214点算定)。これにより、実際に「オンライン診療」を実施している医療機関が16,000となり、内6,000の医療機関が初診から利用している。
「オンライン診療」の中でも「電話診療」が2/3~3/4と多い。高齢者の利用の関係といえる。逆にオンライン利用は小児科が多い。初診からオンラインをやる場合が多くなった。
症状としては発熱、気管支炎などCOVID-19と症状が近いものが多い。カメラで皮膚の状態が見えるため、湿疹も多く利用があった。対して直接処置する外科は少ない。処方期間はほとんどが1週間以内であった。「オンライン診療」は患者のニーズに合って、有効な診断ができて医療者側に大きな負担にならなければ可能な範囲で拡げていくのがよいだろう。
今後検討すべき点を以下にまとめる。
<遠隔診療を進めるために必要なこと>
-
- 「オンライン診療」だけより、症状によっては来院もできるようにする
- 二度手間にならないようなベストミックスができるようにオンラインでわかる仕組みが必要
- 予約・課金管理の仕組み整備
- 患者の居住地の近くでのバックアップ体制
- どういう場合がオンラインに適しているかを探る
- all or noneではなく、集中回避、院内滞在時間の極小化、動線管理
- 技術進歩に伴うニーズ(DtoDコンサル、遠隔手術、AIに画像・データ認識の向上)
- 継続的なCOVID-19対策(体制、ワクチン)<これからのCOVID-19対策>
- コアキャパシティとサージキャパシティ
- 人的資源の最大限の代替
- 有事における情報集約とエビデンスに基づく政策決定
- プライバシーの保護と公益確保のバランス
- 高齢者や基礎疾患罹患者に的を絞った施策展開
- 個別病院だけでない地域ベースでの感染管理
- ECMOや呼吸器など限られた資源の配分を巡るトリアージ
- 感染やワクチン接種による免疫、効果的治療薬の導入
- サプライチェーンの多様化と備蓄
- 効率を意識した「地域医療計画」
- 対策によるオーバーキルが倒産や失業に与える影響<病院経営へのインパクト>
- 医療機関内感染を恐れた患者減少
- 空床確保のための減収
- 院内感染症による診療縮小
- COVID-19患者受入のための工事による影響
- 勝ち組と負け組の差別化
- 病院立地と院内動線、駐車などのスペース管理
- 従業者のモラル維持とバーンアウトを防ぐメンタルヘルス対策
- Eラーニングの一層の普及
- 薬局の立ち位置<医療機器へのインパクト>
- オンライン予診、診療への大幅シフト
- セルフメディケーションの一層の浸透
- 医師の感染を防ぐためにもテレメディシン化
- ウェアラブルデバイスによるバイタルモニタリング
3「COVID-19対応におけるスマートフォンを通じた収集データから見えてきたこと」
宮田裕章氏(慶応義塾大学医学部 医療政策・管理学教室 教授)
COVID-19による死亡者数80万人を超え、感染者も全世界何千万人となっているが、死亡者以上に社会・経済にもたらしている影響が大きい。
そのうちのひとつは失業者。アメリカのリーマンショックに比べ、今回はその100倍以上である。4~5月は失業保険の申請数が4,200万人以上となり、経済格差だけではなく、人権の問題もあり、国の在り方を問い直す一つの契機となった。COVID-19が来なかったとしても、デジタル革命ソサエティ5.0が文明を大きく変える大転換点といわれている。インターネット、モバイルの普及の先に、この新しいデータによる革命が始まる。
世界はすでにデータで動いている。20世紀の時価総額トップを歩き続けていたのが石油メジャーだったが、こういった企業の時価総額をデータメジャーが抜き、数倍以上になっている。
データの重要性を実感したのはCOVID-19においても多く見られた。
例えばマスクの在庫。不安な人は1年間分備蓄してしまう。そういう人が増えると、総量としては足りているのに行き渡らない現象が起きる。
台湾のようにデータ管理ができると、エッセンシャルワーカーや持病を持ったハイリスク者には1ヶ月は必ず在庫を確約する。それ以外の人は1~2週間の単位で提供する。そうすると、総量が同じだとしても満足度が違ってくる。
国内ではCOVID-19の現状を把握するため、LINEで調査を行った。
発熱や嗅覚の状態などあくまでも本人が申告する症状である。LINEの調査を通じて、間接症状とその後報告される陽性者数が相関するのか、因果関係について踏み込んで検証したところ、かなり使えるのではないかということが確認された。公的な目的での調査を、無償で行っていただきデータをいただいたことに感謝している。
今回は全5回の調査を実施した。使い始めからフィードバックできるものにしていった。信頼を作る上でフィードバックが大切であることを学んだ。
調査結果として、職業や生活により、自粛効果などが分析できた。これにより第2波への対策などを見極めていった。
感染者は、第1波では重傷者だけ見ていたが、第2波は軽症者まで見付けにいったので数は増えた。しかし、感染の広がりが同程度とは限らなかった。4月1日と8月15日で比べると陽性者数は多かったが、症状がある人の割合は8月の方が少なかった。実際の感染の広がりは第1波の方が大きかった。
特に若い人たちが感染を広げたのではと思われていたが、第1、2波の内訳を見てみると、第1波のときも多かった。診断されていなかっただけか、PCRを受けていないなど、実はそれほど変わっていない。よい点としては、65歳以上の人たちが自衛をしていることも含め、きわめて少ない割合になっている。
働く環境も大きく変わった。テレワークは5月には4割くらいができていたが、その後激減しているので対策の改善余地がある。
働く場での対策を徹底してヒアリングした。傾向としてすべての対策は劇的に効いていた。オフィスワークは体調の悪い人も出社してしまうことで感染者が増えた。体調管理の徹底が重要である。
雇用や収入の不安、抑うつに対しても質問も行った。大手は蓄えがありよかったが、飲食、レジャー、理容美容、タクシーは大企業、小規模問わず打撃が大きかった。
それ以上に学生の交流の場が奪われたことだった。寄り添っていかなければいけないターゲットを明らかにしながら色々な政策に繋げていった。
現在、データによって新しい社会が生まれつつある。
中国では、金融のテックフィンにより産業構造の変換が起きている。生命保険、保険証書を渡すだけでなく、アプリを通して体験としての健康を実現する支援を行っている。
医療でも大きく変化をしていく。薬を売るだけでポリファーマシーが起きているかどうかもわからない企業は生き残れない。薬をどのようなタイミングで誰に使って健康を実現するのか。あるいは病気を完治できなかったとしても、その人らしく生きる体験にコミットするまで持っていかなければ生き残れないだろう。
今までのデータは最大多数の最大幸福で浅いマーケティングをするものだったが、AI、データを使うことによって、今まではコストがかかり過ぎてできなかった一人ひとりの価値が捉えることが、ほぼ同じ安いコストで実現できるようになった。個別化してインクルージョンを実現する。
すでに万人に訴求するものとして「Health」を軸としながらイノベーションを作っていくのだと、ヘルスケアカンパニーだけでなく多くの企業がヘルスケアの領域の中で新しい医療を作っていこうという取組みが始まっている。
その中でキーワードになっていくのが「一人ひとりを軸にする」人々を軸にした新しいヘルスケアである。
WHOも、自社でデータを持つのではなく、モバイルヘルスを軸にやるべきと唱えている。
今までの医療は死亡につながる重症疾患を軸に考えてきたが、もっと手前のところから見ることができると変わっていく。
新しい時代のヘルスケアはやはりモバイルやデータを軸にしながら、いつでもどこでも世界との連携でサポートしていくということになる。
魅力的な生き方が自然と健康になっていくであろう。病気になる前の段階から生きるということを再発明して支えていくことが必要になる。
過去には若年の感染症だった。今は高齢者になってきているが、データの力は格差がある人達でも、平均値ではなくダイバーシティー&インクルージョンが実現できるのが新しい時代のデータであり解析技術といえる。“Leaving no one behind”をシステムとしても実現するフェーズに入ってきている。
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