『mHealth Watch』では、ここ最近で公開されたニュースから「注目ニュース」をピックアップし、独自の視点で解説していきます。
今回注目したニュースはこちら!
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“モバイルヘルス 成長の苦しみ”
次の考え方は至極単純である。スマートフォンの数が増加することは、小さくて安価なセンサー、BluetoothLE、分析ソフトウェアを使って患者や医師が治療を改善させるためのあらゆる種類のデータを入手できることを意味する。患者は、自身の健康面でもっと積極的な役割を果たせる。医師や看護師は、職場を離れることなく往診が可能になる。
しかし、ひとつだけ取り残されている集団がある。それは患者だ。米国の10人にひとりが歩数、睡眠の質、カロリー摂取をモニターするためにNike、Fitbit、Jawbone製トラッキングデバイスを保有している一方、Endeavour Partnersというコンサルティング会社によると、そのうちの半数以上が使用されていない。スマートフォン用に利用できる10万超のモバイルヘルスアプリのなかで、500ダウンロードされたものは非常に少ない。ダウンロードした人の2/3の人は使用を止めたと、世界的な会計企業PWCの調査(2012年実施)は伝えている。
米国で初期標準のモバイルヘルス技術開発援助を行なうmHealth Allianceの前エグゼクティブディレクター・Patty Mechael氏は、「いつ、そしてどのようにモバイルヘルスが一体となるかについて、現実的な期待はありません。私たちはハイプサイクル(新技術の認知度が時間に応じてどう変化するかを表わす図)のピークと幻滅の谷の狭間にいます」と述べている。
熱狂が見られるなかでも、利用が伸びない理由のひとつに、技術がまだ完全ではなく、歩数カウントといった単純な機能でも正確さに欠けることがある。もうひとつの理由は、動機付けである。こうしたアプリやデバイスを使用したくない人も少なくない。ただ、もし患者が使用するのであれば、よく設計されたモバイルヘルスシステムが役に立つのは明らかである。
Partners HealthCareという、ボストンのふたつの主要病院(Brigham and Women’sとMassachusetts General)を含むヘルスケアネットワークのCenter for Connected Healthでは、品質と費用の両面で多くのモバイルプログラムが大きなメリットをもたらすことを示している。
最近行なわれた研究では、携帯電話が糖尿病を患う患者の活動を向上させるのに役立つかどうかがテストされた。病気の進行に立ち向かうのは重要な方法だが、伝統的なプログラムでは成功することが少なかった。糖尿病を患う130人の患者のうち、半数にFitbit製の活動モニターを供与した。既存の患者記録とFitbitからのフィードバックを組み合わせることで、アルゴリズムがどのテキストメッセージをその患者に送るかを決定した。目標に達しない人には勇気を与えるメッセージを送った。これには、患者の携帯端末から得られる位置情報をもとに、ジョギングコースの情報なども含まれていた。雨の日には、屋内での運動方法についての情報がこのプログラムで送られた。
患者の医療記録に示される信号方式によって、医師は最新の進捗状況を知ることになった。緑は患者の状態が良いこと、黄は要注意、赤は患者がテキストメッセージに反応していないことを示した。
6ヵ月ののち、平均的な患者は毎日1マイルも多く歩いていた。さらに、患者の血糖値は顕著に改善した(複数のFDA承認薬よりも良好な結果)と、センターで研究とプログラム評価のリーダーを務めて研究を行なったKamal Jethwani氏は述べている。
パートナーにとっては、プログラムの成功は次の2点で評価される。患者が健康になる、そして治療費が下がる。糖尿病のような慢性疾患をうまく管理するメリットが現われるのには何年もかかるが、Jethwani氏によると「往診その他の治療で1,000~1,200ドルの節約分に相当する血糖値の低下をすでに実現した患者は多数いる。このプログラムで患者あたり300ドルの負担が減るという相当のリターンがある」と述べている。
こうした実績は、モバイル技術が基本的に、ヘルスケアの提供方法を刷新するのに熱心な人を説得させるだけでなく、保険会社や医療費を支払う患者にも金銭的なメリットがあることを示している。
記事原文はこちら(『MIT Technology Review』7月21日掲載)
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『mHealth Watch』の視点!
今回注目のニュースは、“モバイルヘルスの成長の鍵”に関する記事です。
モバイルヘルスのなかで機器やセンサーなどの技術の進化は、モバイルヘルスの成長には欠かせない部分のひとつです。
しかし、機器やセンサーなどのどんなに良い技術でも、利用者に「継続的」に使用してもらって初めて価値ある「機器」、「技術」として認められるのが、このモバイルヘルス領域での難しさです。
今回の記事にNike、Fitbit、Jawboneなどのウェアラブル機器購入者の約半数以上が継続的に利用していない状況や健康系アプリをダウンロードした人の2/3の人は使用を止めた、という内容から見ても、ヘルスケアサービスの鍵は「継続利用」だと感じています。
この「継続利用」に関してのヒントが、今回のニュース記事の「糖尿病患者向け」テストにありそうな気がしています。
記事の「糖尿病患者向け」テストでは、患者の行動、データに合わせてメッセージを送ったり、患者の位置情報をもとにジョギングコースの紹介や天候に合わせた運動方法についての情報を送ったりと、モバイル技術から得た情報を活用してパーソナライズして、きめ細やかな情報を提供しています。
このパーソナライズしていることこそが「継続利用」につながっている要因のひとつだと思います。
また、きめ細やかなパーソナライズされたメッセージには、「人が見てくれている」という印象を与え、良い意味でのプレッシャー効果も期待できます。
このように、継続利用の鍵となるのは「パーソナライズ」&「人が見てくれている」という状況をいかにモバイルヘルスのサービスに組み込んでいけるかがポイントだと思います。
モバイルヘルスに必要な本当の技術は、機器やセンサーだけではない、サービス部分の技術なのかもしれません。
『mHeath Watch』編集委員 里見 将史
株式会社スポルツのディレクターとして、主に健康系ウェブサイト、コンテンツなどの企画・制作・運営を担当。また『Health Biz Watch Academy』では、「mHealth」のセミナー講師として解説。(一財)生涯学習開発財団認定コーチ。
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