『mHealth Watch』では、ここ最近で公開されたニュースから「注目ニュース」をピックアップし、独自の視点で解説していきます。
今回注目したニュースはこちら!
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“脳の健康度に基づいた、日本初の『金融商品適合性チェック支援AIアプリ』を開発、三菱UFJ信託銀行にてパイロット運用を開始 ”
~人生100年時代に豊かで・安心して資産形成出来る社会を目指す~
順天堂大学、グローリー、日本アイ・ビー・エムは、共同で研究開発してきた認知機能推定AIを金融取引業務で活用する日本初の『金融商品適合性チェック支援AIアプリ』を開発し、2023年3月1日より三菱UFJ信託銀行でパイロット運用を開始します。今後、本AIアプリを他の金融機関に展開していくことも検討していきます。
超高齢社会では、歳を重ねても豊かで安心した生活を送るための健康管理や資産形成サービスが求められていますが、認知や判断などの能力は加齢と共に低下する傾向があり、金融商品取引においては、その影響を配慮したサービスが課題となっています。また、業界団体のガイドラインにおいても、記憶力・理解力等の認知機能等に応じたお客さま対応について言及されるようになりました。現段階では金融商品取引に関わる認知機能をデジタル技術のみで自動的に判断する方法は一般に確立されていませんが、重要な参考情報としてデジタル技術等を活用する可能性が期待されています。
こうした状況に対応していくため、2018年から順天堂大学は累計600症例以上にわたる認知症を始めとした脳神経疾患患者や健常者の方への臨床試験を実施し、その結果を元に、グローリー、日本IBMと共同で会話や表情から脳の認知機能レベルを推定するAIを共同で開発してきました。AIには、IBMのWatsonやデータ解析技術と、グローリーの表情解析技術が用いられています。そしてこの度、認知機能推定AIを活用した、金融商品取引業務の支援に特化した『金融商品適合性チェック支援AIアプリ』を構築しました。認知機能を推定するAIは市場に複数ありますが、金融業務に特化したソリューションとして開発されたAIアプリは、日本で初となります。
本AIアプリでは、タブレットで撮影した表情とAIとの会話から認知機能を15段階で推定し、金融商品の適合性判断を支援するための参考情報「脳の健康度」として提示します。また、2023年3月1日より三菱UFJ信託銀行で開始するパイロット運用では、パイロット運用にご賛同いただける三菱UFJ信託銀行のお客さま数十名を対象に、本AIアプリを実際に使用いただき、資産形成の相談に応じる金融機関の社員やお客さまにとってのユーザービリティの評価・改善を行います。
今後、本AIアプリを様々な金融機関に展開していき、高齢者の方が「脳の健康度」に応じた安心・安全な金融商品取引を行える、人生100年時代の社会基盤の構築を目指します。
脳の健康度に応じた、金融サービスの目指す姿
三菱UFJ信託銀行では、今後検証を続けながら、将来的には年齢にかかわらず、お客さまが安心して安定的な資産形成が行えるよう、認知機能に応じた、利用者目線に立った金融サービスが提供できる体制を構築し、お客様に選ばれる金融機関を目指していきます。
金融商品適合性チェック支援AIアプリの特徴
・日本初の金融業務特化型 認知機能推定AIアプリ
金融機関の社員とそのお客さまが利用する、金融商品の適合性判断を支援するための業務用アプリケーションとして、厚生労働省・PMDA(※1)、に報告・確認を実施して構築しています。そのため、金融機関としても安心して業務導入が可能です。
・音声・表情といった自然なデータで、段階別(グラデーション)測定が可能
自然に取得可能なデータをインプットとするため、短時間でお客さまに負担を掛けることなく、状態の可視化ができます。また、”認知症か否か”を判断するものではなく、認知機能を15段階で測定できます。
・ライトな標準ツール導入から、フルカスタマイズまで柔軟に対応可能
さまざまな金融機関で業務適用可能な汎用性高いツール(アプリ)として設計しているため、数週間ほどの短期間での導入が可能です。また、各金融機関の業務コンサルティング、既存システム・DBとの連携や、UIのカスタマイズなど、柔軟な対応が可能であり、例えば、定期的なモニタリングとしての活用も可能です。標準ツールはIBM Cloud上で稼働し、AWS等の他Cloudへの導入・連携も可能です。
・世界を代表する医療機関での監修・研究実績
2018年から順天堂大学内に「神経変性・認知症疾患共同研究講座(※2)を設立し、脳の認知機能レベルを音声・表情等の自然データから推定するAIの研究開発をしてきました。これまで累計600症例以上にわたる認知症を始めとした脳神経疾患患者や健常者の方への臨床試験を実施してきています。AIには「IBM Watson Speech to Text」を始めとしたIBMのデータ解析技術と、グローリーの表情解析技術を用いています。
・AI倫理の審査を実施
利用しているデータや、その取得・保管方法、AIモデルのロジックなどが道徳的であるかどうか、複数回にわたって倫理委員会等による審査を実施しています。
なお、本アプリは、お客様の資産形成の相談に応じる金融機関の社員が、お客様の金融機関金融商品の適合性判断を支援するための参考情報を提供するもので、有価証券の販売・勧誘又は投資助言を行うものではありません。
注釈
※1 PMDA:独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA;Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)は、医薬品や医療機器などの品質、有効性および安全性について、治験前・承認・市販後の分析などを一貫して実施し、国民保健の向上に貢献することを目的とした組織。近年、デジタル技術等を利活用したプログラム医療機器(SaMD:Software as a Medical Device)への該当性判断なども行っています。
プレスリリースはこちら(学校法人順天堂 2023年2月28日掲載)
※記事公開から日数が経過した原文へのリンクは、正常に遷移しない場合があります。ご了承ください。
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『mHealth Watch』の視点!
今回注目するのは、順天堂大学でを中心に開発した脳の認知機能レベルを推定するAIを活用し金融業務に特化したソリューションとしてのアプリに関するニュースです。
今回、私が特に注目したポイントは以下2点です。
・エビデンスを背景にした脳の認知機能レベルの判定技術を具体的なソリューションに結びつけた点
・見える化、判定の技術を活かすための、表情解析技術やデータ解析技術が連携し、そしてそれを活用する現場の課題とマッチさせた点
これまでにも、多くの大学や研究機関がエビデンスを背景に見える化の技術に取り組み、研究してきていますが、研究発表、論文発表に留まり、その先の具体的なソリューションまでに至らないケースがほとんどです。
研究発表、論文発表の一歩先に進んだとしても、見る化だけ、判定だけで、その先のソリューションの提供までつながるケースは少ないのが現実です。
見る化だけ、判定だけでは大きなビジネスに結びつきにくく、やはりソリューションの提供でのビジネス展開までいかないと大きなビジネスになり難いのが、ヘルスケア領域の特徴と言えます。
また、素晴らしい、画期的な見える化、判定の技術だけでは、実際のビジネスにはならず、やはりそこには、必要な技術や解析、分析等の技術が必要になるのです。
コアの技術だけではソリューション、サービスとしては成立しないため、やはりコアな技術(今回のニュースでは順天堂大学の研究)を活かすための技術(今回のニュースでは表情解析技術やデータ解析技術)を組み合わせ、そしてそれを活用する金融機関の資産形成の相談に応じる現場に落とし込むといった、それぞれの価値を変換し組合わせることで、新しい価値として提供することが必要なのです。
今回のニュースのように、エビデンスを背景にした技術、研究は数多く存在します。
その技術や研究から新たなな価値に変換したり、技術と技術を組み合わせて現場の課題解決に結びつけていくといったアプローチは、これからもっと求められてくると思います。
技術にプラスして、連携する、新たな価値を作りだす役割が、これからのヘルスケアの領域では必要になってくると、今回のニュースをみてあらためて感じました。
『mHealth Watch』編集委員 里見 将史
株式会社スポルツのディレクターとして、主に健康系ウェブサイト、コンテンツなどの企画・制作・運営を担当。また『Health Biz Watch Academy』では、「mHealth」のセミナー講師として解説。(一財)生涯学習開発財団認定コーチ。
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